第4章 お稽古と呼吸の技
約束通り次の日から実弥は自身の鍛錬の時間の合間を縫って風音に稽古をつけてくれた。
初めは細過ぎる体に無理がないように柔軟を主に執り行わせつつ、健康体に近付けるため三食しっかり食事を取らせていた。
そこには杏寿郎や天元も惜しみなく協力し、普通の少女ならば体型を気にして辞退願うほどの高熱量の食材が届けられ共に膳を囲んだ。
更には二人の話を聞きつけた蜜璃が小芭内と共に大量の甘味を持参して遊びに来たり、しのぶが風音の体調管理も兼ねて体にいい食材を義勇に運ばせて駆け付けてくれたりした。
そして行冥はわざわざ単身、風音の憂いを晴らすかの如く念仏を唱えながら大量の米を差し入れてくれたり……
「実弥さん、自分でも驚くくらいにお腹とか二の腕がプニプニしていますよ!このままだとフカフカな体型になっちゃいそう。爽籟君も心做しか脚の上が心地良さそうな……?」
現在はあれから二ヶ月経過したある日の昼下がり。
ようやく健康体に近付いた風音に基礎鍛錬を鬼のようにさせて、爽籟も交えてしばしの昼休憩である。
「よかったじゃねェか。まぁ、心配する間もなく腹と腕は固くなるから心配すんな。一週間後には爽籟が涙流すくれェ脚も筋肉つくだろうからなァ」
フワフワと温かい風音の脚の上で微睡んでいた爽籟は悲しげに瞳を揺らし、それならば今のうちに堪能してやると言わんばかりに体を沈み込ませた。
「お稽古は大変だけど、目に見えて体が変わっていくのはすごく嬉しいです!爽籟君、筋肉がついて固くなってもここに来てね?温かくて大好きです。それにしても本当に……皆さん温かくて優しいですよね。私のお話を聞いても誰も拒まないで居てくれたもん」
柱が次々と赴いてくれる度、風音は全てを話した。
ただただ人のために日々鬼狩りに奔走する人たちは、やはり個人に対してもとても優しく誰も風音に嫌悪感を示すことをしなかった。
「そりゃあ……お前に何の罪もねェからだろ。それにお前の能力で鬼狩りも捗ってんだからなァ。……痛みはもうねェのか?」
心配そうに実弥が目を向けたのは風音の右腕。
「私の能力なんて僅かなものですよ。皆さんの力量があるから役に立ててるに過ぎないから……実弥さん、私は大丈夫です。それより実弥さんの怪我を未然に防げてよかった」