第22章 想いと約束
「てか違いって何だァ?!俺は釘刺されてねェのに剣士に怯えられてんぞ……あ、そう言えばアイツもある意味怯えられてんのかァ?確か狂薬学者だっけ?……人様の女に失礼な話だぜ」
珍しく一人で百面相を繰り出す実弥の表情がある足音でぴたりとおさまり、殊更穏やかな表情となった。
ゆっくりと動かした視線の先にはもうすぐに開かれると思われる襖。
その襖は実弥の想像通りすぐに開かれ、ニコニコと笑みをたたえた風音が部屋へと入ってきた。
「お待たせしました。作り置きなくって遅くなっちゃった。……あれ?サッちゃんいないの?他のお部屋かな?」
キョロキョロ見回してもサチはいない。
何分実弥がつい今し方まで一人で百面相を繰り広げていたのだから。
「サチはいねぇよ。剣士の奴らに可愛がられてっからなァ、大部屋に邪魔して一緒に寝てんだろ」
「サッちゃん可愛いもんね!すっかり剣士の皆さんの人気者だ」
変わらず笑顔のまま実弥の前で腰を落ち着けた風音から漂うのは、まるで満開の藤棚の中に迷い込んだかのように錯覚するほどの藤の花の香り。
これほどまでにしなくてはならないくらい、危うい身の上になってしまった風音を想うと胸が軋むような痛みに苛まれるが、目の前では自身の身の上を悲観することなく笑顔の風音がいる。
わざわざその笑顔を曇らせることもないので、枕元に藤の花から抽出したと思われる液体を安置する風音を声も出さず両腕を広げて呼んでみる。
すると間髪なく勢いよく軽い体が嬉しそうに飛び込んできて、あっという間に実弥の胸の中にすっぽりおさまった。
「私、藤の花の香りも好きだけど、実弥君の匂いが一番大好き。なんかすごく落ち着くし、ふわふわした気持ちになる」
とまぁ……剣士たちが別室で体を休めているのに無意識に実弥を煽る煽る……
だがここで理性を吹き飛ばすほど実弥も見境なしじゃない。
今は大人しく胸の中でおさまっている風音の頭をヨシヨシと撫で……自身の昂りそうな感情を落ち着けた。
「そう言えば前に言ってたよなァ?女として扱ってくれって。お前、今俺を誘ってるって自覚してんのかよ?」
「……え?!あ……いえ、その、そんなつもりは……なくて。ただ思ってることが口に出たと言うか……」