第22章 想いと約束
所変わって風音の稽古場から少し離れた場所。
そこにはひっそりと気配を消した実弥と玄弥が佇んでいる。
「兄ちゃん……こんなところから見なくても、目の前で見せてもらったらいいんじゃない?」
「うっせェ。てかお前、何で着いてきてんだよ……昼からも稽古あんの忘れてねェだろうなァ?」
兄弟仲良く義勇に稽古を付けてもらっている風音の様子を見学しているらしい。
ただ今いる場所からだと離れているので、事細かな様子までは確認出来ない。
それでもこの場所から見学するということは、何か理由があるのだろう。
「忘れてないよ。俺、兄ちゃんみたいに強くなるために、兄ちゃんと同じ行動しようと思ってさ。ねぇ、それより何で近くで見ないんだ?」
キョトンと首を傾げる玄弥の言動に思い起こされたのは、昨日の夕餉の前の出来事。
義勇が実弥と仲良くなりたいからと設けられた会合の席。
暫く無言の時間を過ごしたものの、いつも通り話を切り出してくれた風音に促され、義勇が懐から取り出し手渡してきたのは甘味の入った包みだった。
この際、懐から包みを取り出したことには目を瞑り、苛立ちをどうにかこうにか抑えながら手渡された包みを開けると、中には様々な甘味が入っていたのだ。
しかもその中におはぎも入っており思わず顔を綻ばせると、それをみた義勇が誇らしげな笑みを向けてきた。
『不死川はおはぎが好きなのか。これから土産に持ってくることにする』
なんて苦手としている義勇に言われたものだから、恥ずかしさから苛立ちが最高潮に達し怒鳴り散らしたのに……
義勇はその時からずっと機嫌が良く、見たこともないほどに笑顔を継続させているので、実弥は近付くことを嫌がっている状況である。
(行きたくねェんだよ!満面の笑みでアイツに近寄られても反応に困るだろうが!……だが稽古がどんなもんかは気になっちまう。風音が柱に稽古付けてもらう度、強くなってんの見んの面白ェし……)
近くで見たいのに昨日の出来事によりそれが憚られてしまい、この状況になっていると言うわけだ。
そんな事情があるなどと知らない玄弥は、真っ直ぐに風音を見つめる実弥の穏やかな表情を目にして頬を弛める。
「兄ちゃんって意外と分かりやすいよね。風音の様子が気になるなら、それこそ近くで見たらいいのに」