第22章 想いと約束
翌日。
風音は機嫌のいい義勇に稽古を付けてもらっている。
「……」
「…………わわっ?!」
それはそれは静かな稽古である。
水柱の稽古は滑らかな動きを身に付けさせるもの。
普段飛んだり跳ねたりを戦法として取り入れている風音にはなかなか難しく、考えられないほどに綺麗で流れるような太刀筋は突如として風音の体に襲いかかる。
「上半身と下半身を一つのものとして考えろ。それだけで随分動きはよくなる」
「上半身と下半身を一つのものとして、それぞれの動きの後は止まらず流れるように技を……はい!夙の呼吸 壱ノ型 業の風」
「水の呼吸 壱ノ型 水面斬り」
言われたことを反芻しながら出した技は静かに動いた義勇に技を以て止められ、鍔迫り合いに相成った。
しかしここで待ってくれるほど柱に対して柱は優しくない。
「水の呼吸 拾壱ノ型 凪」
「拾壱っ?!……夙の呼吸 弐ノ型 吹花擘……いっ?!」
見たことも聞いたことも無い技が義勇から放たれた。
左右からだけでなく上下からも繰り出される水の刃は風音の攻防一体の技をもすり抜け、幾つも体に傷を作っていく。
その刃の一つが首元をかすめ、僅かに切れた皮膚から血が滲み出てきた。
……ここまでするつもりは義勇もなかったのだろう。
不測の事態に慌てて技をおさめ、どうにか足を地に着けている風音の首元に手を当てた。
「すまない……こんなところに傷を負わせるつもりはなかった」
切れたのは僅かだったので血が吹き出すことはないが、場所が場所なだけに義勇の手の隙間から赤い筋が滲み出してくる。
だが風音は一切気にしていないようで、当てがってくれている義勇の手を笑顔で握ってそっと離した。
「お気になさらず、です!謝罪など私には不要です!こんなのかすり傷ですし、何より義勇さんの見た事のない技を見せていただけて感謝しかありません。鬼と戦う上で咄嗟の行動を取れなければ命取りになりますもの。さぁ、続きをお願いいたします!」
飽くなき鬼殺へ精を出す風音に義勇は構えを取り直した。
……ちなみに稽古が始まった時から義勇はずっと頬が緩んでいる。