第22章 想いと約束
それに素直に従いちょこんと座るも、風音の視線は未だに固定されたまま。
「見過ぎだァ……どっちに転がってもいたたまれなくなるからこっち見ろ」
「う、うん。ごめんなさい……そ、それはそうと!獪岳さんのことはどうする?!言わない方がいいかな?」
自分から話を横道に逸らしたものの、無事に本題に戻れたことに実弥は安堵の溜め息を零し、しっかりと見つめてくる風音の頭を撫で撫で。
「別に言っても問題ねェだろうが、本部がまだ伝えてねェなら俺らからはその話題に触れない方がいいだろ。お館様のことだァ、言う頃合いを考えていらっしゃるはずだ」
最もな実弥の意見に風音は頷き返し、撫でてくれている手の心地良さにほんの少し緊張を和らげた。
「そうだね。それなら私もお館様に判断を委ねさせてもらおうかな。よし、そうとなれば私は今まで通りお稽古や研究に全力で取り組んで戦いに備えないと!その前に今日のお夕飯を作って……」
何かを思い出したのか風音の動きと言葉がピタリと止まった。
「何だよ?」
「実弥君!義勇さんが実弥君に渡したい物があるみたいなの!お夕飯の準備は私一人で大丈夫だから、準備が整うまで義勇さんと二人でお部屋でお茶しながら待ってて?お向かいのお部屋に……」
いついかなる時も即行動な風音は実弥の手を引っ張り向かいの部屋に誘おうとするが、義勇が苦手な実弥からすれば辞退願いたい案件である。
引っ張られる手を引き返し、風音のうずうず動く体を押しとどめた。
「冨岡と二人とか勘弁しろよ!あんな無口な奴と何話せってんだァ?!晩飯の準備は愚図共にやらせろ!お前がいねェなら俺は冨岡と向かい合うなんざ御免蒙る!」
「でも……実弥君と仲良くなりたいって義勇さんが言ってたから、私がいると恥ずかしがっちゃって余計にお話し出来なくなるような……私がお喋り続けてしまう自信しかないよ?」
それでも義勇と二人きりと比べると随分違ってくるのだろう。
結局、夕餉の準備は剣士たちが行い三人で会合を行うこととなった。