第22章 想いと約束
小さな呟きは確かに善逸を諌めているにも関わらず、風音の耳に響く声音は善逸を労るものも含まれており、実弥の中でも様々な葛藤があるのだと知らしめてくる。
「善逸さんに伝えるのが正しいのか、伝えないのが正しいか難しいところだよね。知れば悲しんでしまうけど、奮い立つかもしれない。知らなければ、お稽古期間中はお稽古に集中出来るだろうし……難しいね」
「泣き喚くアイツ見てると何度も言ってやろうかって思ったがなァ。……なァ、風音。せっかく冨岡の野郎が見張っててくれてんだ、邪魔入んねェなら俺の気ィ鎮めてくれ」
風音の顔や体に伝わってくる実弥の鼓動は部屋に入った時から速く体温も高いままだ。
様々な要因から興奮状態が続いていることは風音も承知の事実なので、実弥の胸元から少し離れて顔を覗き込む。
「私で出来ることならば何でもするよ?でもここで木刀振り回したら色んなもの壊れちゃう。実弥君と私の手合わせに邪魔なんて入らないから、お庭で改めてしましょ?」
……実弥の想い届かず。
別に本気で現在の興奮状態を風音にあれやこれやで鎮めてもらおうと思っていたわけではない。
ただほんの少しでも恥ずかしがってくれれば満足だったのに、返ってきたのは真面目極まりない言葉だった。
「お前……この状況でそれ本気で言ってんのかァ?邪魔の入らねェ密室で、俺と二人きりなんだぞ?」
「ん?……もちろん本気で……あ!そ、そうだよね!うん、もちろん冗談と言うか……本気で言ってない……えーっと、どのようにさせていただければよろしいでしょうか?!」
ようやく実弥の真意に気付いた風音の顔は真っ赤に染まり、懐かしく感じるやけに畏まった敬語が飛び出してきた。
しかも早口なので恥ずかしがり動揺しているのが分かる。
「ハハッ、悪ィ。その反応見たかった……おい、どこ見てやがる。手ェ……それ以上動かすんじゃねェぞ!」
気を抜いた瞬間に風音の視線はいずこかへ。
それに伴って実弥の背中に回されていたはずの風音の手は視線の先へと伸びようとしていた。
いけない気持ちに拍車がかかる風音の行動を寸前で阻止すると、そのままの格好で固まり続ける即行動の少女を畳に座るように促した。