第22章 想いと約束
「風音、お前元気有り余ってるよなァ?ちょっと俺に付き合え」
風音の大好きな実弥は酷く興奮している模様。
呼吸は荒く、表情も鬼狩りのそれと同じだ。
どうやら今日の稽古は実弥からすると歯応えがなかったらしく、不完全燃焼を起こしているようである。
今の実弥の相手をしようものなら激しい手合わせが予測される……
しかし風音は実弥に願われれば断るなどという選択肢は一瞬たりとも浮かばない。
……悲しいことに。
「元気は有り余ってるよ!手合わせならいつでも歓迎!だけど、お夕飯の準備してからでもいい?朝に粗方済ませてるからすぐに終わると思うんだけど」
断ってこないニコニコ笑顔の風音に実弥の興奮は僅かに落ち着き、腕を掴んでいた手の力を緩めて頭にポスンと移動させた。
「あ"ぁ"……悪ィ、気ィ立ってたわ。手合わせはまた後日にでも出来りゃあいい。はァ……冨岡ァ、ちょっとそこの愚図共が逃げねェように見張ってろ。コイツと席外す」
「?あぁ、邪魔はしないので安心しろ」
何の邪魔をしないのか……
いつも要らぬ言葉を吐く義勇を怒鳴りつけてやろうかとも思ったが、相変わらずニコニコしている風音を見ると力が抜けるというもの。
実弥は小さく舌打ちをして、お行儀よく縁側で正座をしていた風音に立つよう促し手を引いて寝室へと移動。
そして部屋の中に入ると風音の体をふわりと抱き締め、まるで気持ちを落ち着かせるように深呼吸を落とした。
「お疲れ様でした。お稽古でも疲れたと思うけど、何より善逸さんの兄弟子のことで気を揉んでいたでしょう?……獪岳さんのことを教えるか教えないかで」
実弥の背に回された手は小さいはずなのに、触れた部分から伝わる熱は瞬く間に実弥の全身に行き渡り、心地よく張り詰めていたものを弛ませてくれる。
そんな不思議な手の温もりに癒されつつ、ぽつりぽつりと言葉を零した。
「お前はよく見てんなァ……我妻だが、屑野郎になっちまった獪岳のこと知らねェんだ。稽古中に呟いてた、獪岳はこの稽古を突破したのかなぁ……ってよ。鬼に堕ちた奴が稽古なんて来るわけねェのに……呑気なこった」