第22章 想いと約束
「うぅっ、炭治郎はまだ来てないんだよぉ……戻りたくないし死にたくなぐぇえっ!」
いつまでも愚図り続ける善逸に痺れを切らしたのだろう。
実弥は善逸の襟元を掴み、軽々とその体を持ち上げて自身の顔の真ん前に善逸の顔をもっていった。
「よォオく分かったァ……殺されてェんだなァ!覚悟しやがれェ、扱き倒してやらァ!」
再び形容し難い叫び声が辺りに響き渡り、どうにか実弥から逃れようと体を懸命に捩らせているが、怒り狂った実弥の腕力に叶うはずもなく、善逸は悲しきかな不死川邸へと連行されていく……
そのまま門をくぐるかと思いきや、実弥は庭へと足を一歩踏み入れたところで風音に向き直り、比較的穏やかな表情で手招きした。
「風音、冨岡との手合わせの様子教えろ」
「あ、うん!義勇さん、お家に入りましょ!お茶、ご用意しますから」
実弥と善逸の激しい遣り取りを呆然と眺めていた義勇の手を取り、手招きしてくれた実弥へと走りよって行くが……目の前に到着した時には実弥の表情が険しくなってしまっていた。
「実弥君?どうしたの?何か……」
「いつから冨岡の名前で呼ぶようになって、いつから手ェ取るまで仲良くなりやがったァ?」
どうやら今の風音と義勇の遣り取りにヤキモチを焼いてしまったらしい。
風音はニコリと笑顔を実弥に向けながら、義勇の手をそっと離して実弥の空いている方の手を握り締めた。
「さっきね、手合わせで柱のどなたにも勝てないって落ち込んでた私に、名前で呼んだらいいよって言ってくれたんだよ。私が喜ぶことを考えてくれたの」
そう言われてしまえば嫉妬剥き出しにして怒鳴るなど出来ない。
落ち込み続けている風音を見るより、こうして幸せそうな笑顔で側にいてくれる方が実弥にとって喜ばしいことだからだ。
それに義勇も義勇で申し訳なさそうに眉を下げているので、完全に怒気は消え去ってしまった。
「そうかよ……けど、あんま他の男の頭撫でたり手ェ握ったりすんなァ。ほら、行くぞ……冨岡も入れよ」
笑顔で頷いた風音の手を引っ張り庭へ足を動かすと、義勇も嬉しそうにその後に続いた。
そして担がれた善逸から実弥へ……
「俺らにもそれくらい優しい顔してくれても」
「うるせェ!テメェは文句ばっかだなァ!」
稽古は厳しくなることが予想される。