第22章 想いと約束
まさか本当に迷子になっていたとは……
不死川邸から向かったであろう甘味屋は、いつも風音と実弥が食材の買い出しに利用させてもらっている商店の建ち並ぶ場所のはず。
つまり距離は離れていない……と言うよりも歩いて五分の場所だ。
しかも金魚の街の宿からの帰り道に三人で通りすがっている。
それなのに義勇は帰り道が分からなくなってしまっていたらしい……
(行きは良い良い帰りは何とやら!うん、取り敢えずお二人共休憩してもらわなきゃ)
思い立ったらすぐ行動。
風音は実弥を見つめてニコリと笑い手をきゅっと握り締めた。
「実弥君、中で休憩してもらってもいいかな?」
「あ?何で俺に確認すんだァ?風音の好きにしたらいいだろ?」
実弥にとって何気ない当たり前な返答は風音にとって嬉しかったのだろう。
ふわりと柔らかな表情となった。
「ありがとう。ここは実弥君のお家だから、勝手しちゃダメかなって思ってて。フフッ、すごく嬉しい!では早速……冨岡さん、玄弥さん。どうぞ上がってください!お茶を用意するので居間でお待ち下さいな!」
嬉しそうな……本当に嬉しくて仕方ないと言うような笑顔で二人を屋敷の中へと促すと、風音は台所の方角へ体をクルリと反転させ、機嫌良さそうに軽い足取りで歩き出した。
その後ろ姿をキョトンとしながら三人が見つめていると、大きな独り言が。
「実弥君のお嫁さんになったみたい!」
もちろん大きな独り言なので全員の耳にしっかりと届いているのであって……実弥は耳まで真っ赤に染めた。
そんな事になっているとは露知らず、風音はご機嫌のまま廊下を歩き、やがて台所へと姿を消していった。
「兄ちゃん……えぇっと、風柱様、大丈夫ですか?その……顔が真っ赤に」
「あ"ぁ"?!赤くなってねェ!お前らァ……何も聞いてねェよなァ?!俺は何も聞こえてねェ!グズグズすんなァ!ちゃっちゃと動けェ!」
誰も悪くない。
敢えて言うならば思いの丈を零した風音が悪いのかもしれないが、喜び全開の少女を責める気は誰も起こらず、血管を浮き上がらせ先を歩き出してしまった実弥の後を、玄弥と義勇は顔を見合せた後に続いた。