第21章 藤の花と全貌
しかしここで怒鳴り散らしてしまえば風音が起きてしまう……
そうならないために怒りで考えのまとまらない頭で思考を巡らせ、義勇の胸元の隊服を掴んで自分の方に寄せた。
「俺の、どこをどう見て……女に見えやがる。喋ることねェならこれ以上余計なこと言う前に……せめて口閉じとけェ」
あくまで静かに、しかしドスの効いた声に鋭い視線は忘れない。
一方義勇は何故実弥が怒り出してしまったのか見当がつかず、少し悲しそうに目じりを下げて口を閉ざしてしまった。
それを確認すると義勇の隊服を解放し、その手を風音の眉間に持っていった。
……シワが寄っているので伸ばそうとしているようである。
「あーぁ、せっかく冨岡喋ったのに。ま、いっか!なぁ、不死川。嬢ちゃん大丈夫か?俺さぁ、先を見ると決まって嬢ちゃんが泣いてる気がするんだよ」
本題はこれだったようだ。
唐突に始まった真剣な話題に、実弥は眉間でシワを伸ばしていた手を髪に移動してゆっくり滑らせた。
「泣いてる。宝物だっつってる奴らが怪我したり居なくなっちまう先見て泣かねぇなんて芸当、コイツに出来るわけねェから。だが俺はそれを承知で願った。手を貸してくれってなァ。酷ぇ願いだ」
「それは違うのではないか?酷い願いだと思っているならば、お前をこんなにも慕わないだろう」
義勇は過去の何かに思いを馳せるように僅かに目を細めた後、難しい顔をして眠っている風音に視線を落とす。
眉間にシワは相変わらず寄っているが、その少女の手は離れるまいと強く実弥の隊服を握り締めていた。
「俺ならば己に酷い願いをする奴をここまで慕わない。柊木は鬼に対して意外と好戦的だと聞く。つまり」
……待てど暮らせど義勇から先の言葉が出てこない。
どうやら先の言葉が思い浮かばず諦めたようだ。
「だァア!お前は何なんだァ?!言葉考えてから喋れや!」
怒る実弥に戸惑う義勇、笑いを堪える天元の賑やかな遣り取りに、夢の世界から帰還してしまいそうな風音。
三人は慌てて口を閉ざしたが、翡翠色の瞳がゆっくり開かれてしまった。
「んんーー……?……ん?あれ?実弥君に……天元さんに冨岡さん……?」
「あ"ぁ"……悪ィ、起こしちまったか。まだ眠いなら寝てて構わねぇぞ」
労わってくれるような優しい声音が風音の耳を刺激し……飛び起きた。