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涼風の残響【鬼滅の刃】

第21章 藤の花と全貌


「悪かった。俺が悪かったから……逃げようとすんなァ。俺は傷付いちゃいねェ。頼む……逃げないでくれ」

強い力で抱き寄せられているのに不思議と苦しさはなく、もたらされるのは変わらず優しい暖かさと切ない声音だけだった。

どうしても応えられない先ほどの実弥の願いとは違い、やはり風音は実弥の個人的な願いを退けるなど出来なかった。

「実弥君は……何も悪くない。あんな言い方されたら……誰でも嫌な気持ちになるもん。うぅ……ごめんなさい……たくさん嫌な言い方して……ごめんなさい」

ようやく抵抗をやめた風音の体をしっかり抱き締め直し、震える肩口に頭を預ける。

「風音が謝ること何もねェよ。悪ィ、追い詰めるようなことしちまった。力を貸してくれって願った俺がしていいことじゃなかった」

あくまで実弥は悪くないのだと言うように首を左右に振る風音に苦笑いを零し、縮こまる体をふわりと抱き上げて地面へと降り立つ。

「柱振り切るために屋根の上になんて登んなァ……危ねぇだろ」

「ごめんなさい……無我夢中で、屋根の上に乗った記憶あんまりない。しのぶちゃんと蜜璃ちゃん……皆さんにも迷惑かけたから……謝る」

返事をしたかと思えばしゃくり上げてしまっているので、聞き取るのがやっとな状況ときた。

間違いなく実弥が悪い。
こうさせてしまった実弥が悪いのだが……しゃくり上げてしまう誰かの姿など子ども以外見たことがなく、場に似つかわしくないと分かりつつも笑みが零れてしまった。

「誰も風音に怒っちゃいねェよ。ただお前が言えないことは全員が知りたいもんだァ。今は言えなくても構わねェが、戦始まるまでには絶対話せ。いいな?」

いつになれば話せるのかは分からない。
この事態を耳にしたお館様からお呼びがかかり、話す許可が出るかもしれないし、反対に出ないかもしれない。

だが風音だってお館様を失いたくないのは柱たちと同じだ。
例え口止めされたとしても、実弥だけにはどうか……とお館様に願うことくらいは出来る。

「うん……どうにかしてみる。だから少しだけ待っててね」

「あぁ。分かった……はァ、気ィ進まねェけど部屋戻るかァ……」

しゃくり上げているのは止まっていないが涙の止まった風音の手を引き、実弥にとって気まずい空気漂う部屋へと足を向けた。
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