第21章 藤の花と全貌
しのぶと蜜璃の静止を振り切り、風音がやって来たのは本部の屋根の上。
ここは実弥と共に二人で体を休めていた部屋の上なので、多少声を出したとて誰にも気付かれない場所だ。
「どうしよう……実弥君にあんな言い方……あんなのただの八つ当たりだ。実弥君に八つ当たりなんて……どうしたらいいの?……だって言えないよ……お館様がその身を以て鬼舞辻無惨を足止めするなんて……勝手に言えない」
実弥に凄まれても言わなかった未来。
それは皆が親のように慕い尊敬するお館様の最期の姿だったのだ。
お館様はあまね様を通してもまだ誰にもこの事実を話していない。
むしろお館様もこうした未来が来ることをまだ知らないのかもしれない。
そんな未来を誰にも話すことが出来ず、悲しみ落ち込み頭の中が混乱した状態で実弥に凄まれてしまい、反射的に返してしまった言動が先ほどのものだ。
「お母さん……お父さん……どうしたらいいの?誰か教えて……こんなのヤダ。辛い先を見せてしまった後に……こんな残酷な先をどうやって伝えたらいいの?……実弥君……助けて」
こんな時なのに縋ってしまうのは、風音の言動に驚き固まってしまっていた実弥だ。
今はどんなに泣いても胸を痛めても、傷付けてしまった実弥は近くに来てくれないし、優しい手で頬を撫でてはくれない。
可能な限り声を殺しひとしきり泣いてしまおうかと瓦に横たわろうとすると、ふわりと体が優しい暖かさで包まれた。
「頼むから一人で泣いてくれんな……俺の態度が良くなけりゃさっきみてぇに反論して構わねェ。お前に反論されて当たり前のことしたのに……何でお前が泣いちまってんだよ」
間違えるわけもない。
優しい暖かさ、優しい声音は風音が大好きな人のものだ。
だがそれが今は風音の胸を締め付け、壊れそうになるほどの痛みに体を捩った。
「実弥君に……優しくしてもらう資格なんてない。いっぱい傷付けて悲しい想いさせたんだから。優しくしないで……」
いくら風音がもがこうが実弥の体から抜け出せるはずもなく、もがくにつれて実弥の力も強くなるので逃げ出すことは叶わない。