第21章 藤の花と全貌
打って変わって全員が気持ちを切り替えた室内。
プツン
と先の光景が皆の頭の中から消え失せた。
何が起こったのかなど考えるまでもない。
風音が自らの意思で皆に先を送るのを辞めてしまったのだ。
痛がっている様子もなく、悲壮に満ちた表情をしていることもない。
ただ不自然に無表情で瞳には何を映しているのか分からない状態だ。
「おい!何があった?!しっかりしろ!」
実弥の声に反応した風音の瞳には色が戻ったものの、口を固く閉ざし首を左右に振るだけ。
「何見ちまった?俺らにも言えねェのか?」
「……今は……まだ言っちゃダメだと思う。開戦の日は変わらないから、さっきの続きを……確か……あそこから」
うわ言のように呟いた後、風音が見たであろう言えない先を除いた光景が再び柱たちの頭の中に流れ込んできた。
胸を抉るような実弥視点の光景が永遠と続き、終わりを迎える頃には空が黒く染まりきっていた。
「これが総力戦の一部始終の……一つの未来です。本来起こるはずの先が何の脚色もなく映し出されたものなので、これが全てではありません。ですが、この先を元に作戦を綿密に練れば、犠牲者は大幅に減らせるはずです」
震える手を握り締めた風音は悲しげに一度畳へと視線を落としたが、次に皆が見た瞳には弱々しさなど感じ取れない強い光を宿らせていた。
「今日は実弥君の視点を借りて先を見ました。後日にはなりますが、皆さんの先をそれぞれ最後まで見せてもらえれば……より詳しく先を知ることが可能です」
誰しもが風音の言葉に異を唱えることはしない。
鬼殺隊側が有利になるのであれば、その情報を手に入れるべきだと思っているからだ。
だが……皆にはまだ見せてもらっていない先が一つだけある。
「なァ、総力戦はどうやって始まんだよ。何処でどうやって、何時頃に始まるかまだ見てねェだろ」
皆の言葉を代弁した実弥に、風音はやはり首を左右に振った。
「私も途中で見ることをやめたし、今はまだ見る時じゃないと思う。私が言えることは……鬼舞辻無惨の本拠地に引きずり込まれ、総力戦が始まるってことだけ」
幾度となく実弥が鬼狩りの場で見てきた譲らない時の風音の表情。
『鬼に有効な手段は使うべきです』
と言ってのけた時と全く同じ表情をしている。