第21章 藤の花と全貌
数秒後、風音は無事に眠りにつき部屋内は静寂で満たされた。
(寝たか?……そりゃあ疲れるよなァ。大好きな奴が死ぬとこ見て感覚切れず血ィ吐いちまったんだから。次は冨岡……これ以上死ななきゃいいが)
せめて今だけでも穏やかに……と、実弥は体を僅かに自分へと寄せて、疲れを癒し眠る風音をしばらく見守った。
風音が眠りいくらか時間が経過した頃、他の柱たちと天元は別室で何をするでもなく待機していた。
「なぁ、誰か何か喋れよ。まだ全員が健在だってのに葬式みてぇじゃねぇか!こんな空気じゃ嬢ちゃん合流した時よくねぇだろ?!」
それに溜まりかねて声を上げたのは天元。
「そう思うならお前が何か話題を切り出してはどうかね?」
冷静に言葉を返したのは小芭内。
そもそもいつも賑やかにするのは天元や蜜璃であるが、蜜璃にそれを今背負わせるのは可哀想なので、自ずとその大役を担うのは天元となる。
「えぇ……俺かよ。…………お前ら、卓袱台の前に集まれ!腕相撲大会第二弾開催すんぞ!」
「なるほど!腕相撲大会か!よし、乗ったぞ!」
「待て待て……腕の力など短期間で優劣が覆るわけないだろう」
いつの日かの柱合会議の後にした腕相撲大会が小芭内や皆の脳裏を過る。
それぞれその時の結果は満足のいくものだったりそうでなかったり。しかし結果に満足していない者の体も素直に卓袱台の前に移動しているので満更でも……と言うより他に妙案が浮かばなかったのだと見える。
「いいんだよ!要は嬢ちゃんが来た時に辛気臭ぇ雰囲気じゃなければいい話だ!それにお前ら何人か痣出てんだろ?身体能力上がってんなら、前と結果変わるかもよ?」
「俺はまだ出ていない」
義勇の小さな呟きはもちろん皆に届いているが、義勇を蚊帳の外に出す気はないようだ。
「案ずるな!勝敗よりこの場を楽しめばいい!さぁ冨岡、まずは俺と第一戦交えよう!」
……こうして風音と実弥が知らないところで、ひっそり騒がしく賑やかに腕相撲大会が開催されることとなった。