第21章 藤の花と全貌
苛立ちを吐き出してやろうと思っていたのに、こうも穏やかな表情を向けられ、そっと手を包み込まれては勢いが削がれてしまう。
「はァア……お前が喜んでんならもういい。だが体休めなきゃなんねェのは変わってねェ。お前ら、コイツ寝かせるから違う部屋で待機しててくれ」
皆に囲まれフワフワ笑顔な風音の体をヒョイと抱き上げ自分の胸の中におさめると、早く寝ちまえというように背中をポンポンと軽く叩いてやる。
すると風音はやはり疲れていたのか、体温が少しずつ上昇しうつらうつらと船を漕ぎ出した。
「不死川、邪魔をして悪かったな。柊木を休ませてやってくれ。私たちは別室で待機している。さぁ、皆。静かに移動しよう」
この場を素早く明け渡してくれようと真っ先に動いてくれたのは、一番の年長者で実弥も尊敬している行冥だった。
行冥は立ち上がると全員にも立ち上がるよう促し、そのまま部屋の外へと誘導していく。
「悲鳴嶼さん、ありがとうございます。お前らにも……感謝してる。コイツ、胡蝶の先見て落ち込んでたんだよ。それもお前らが来てくれたから……持ち直した」
「皆さん……ありがとうございます」
部屋の外へと皆が退散し襖が閉められようとした瞬間、この部屋にいた者たちへ向けられた実弥の言葉と、夢現ながらも皆に感謝を述べる風音。
実弥の視線は風音へと向けられており誰とも目は合わないが、照れたように頬が赤く染まっているので、恥ずかしさを押しての言葉なのだと誰の目から見ても明らかだ。
何とも穏やかになった実弥を茶化す者などいるずもなく、眠りかけている風音の意識を自分たちに向けぬよう、皆は笑顔で頷きながら部屋を離れていった。
「はァ……ほら、横になれ。このままじゃあ満足に休めねぇだろ。隣りにいてやるから寝ちまえ」
「ん……このままがいい。一人で横になるより、実弥君の腕の中の方が心地いいから。実弥君が辛くないなら……このままいさせてほしい」
別に体勢的に辛いことなどないのだが、実弥としてはちゃんと横になって風音に休んでもらいたいところ。
しかし風音たっての願いを退けられるわけもなく、実弥は小さく息をつき、ポカポカな体を抱き寄せたまま畳に体を横たえた。