第21章 藤の花と全貌
しのぶを懸命にこちらへと風音が説得して暫く。
実弥は自邸の門の外であっちへこっちへと忙しなく動き回っていた。
「もう日が暮れちまう。どうなってやがる、どっかに泊まるなら絶対連絡寄越すアイツが連絡の一つも寄越さねェ。鬼が出たって報告もきてねェし……また輩に絡まれてんじゃねェだろうなァ?クソ!」
空はすっかり橙に染まり、あと三十分もすれば月が顔を出す時間となっている。
遅くなるなりどこかへ泊まるならば、今まで風音は必ず連絡を寄越してきていたのに、今日に限っては梨の礫。
普段あるものがないと心配になるというもので、実弥もそれにならい心配で心配で、ついには本部の方角…… 風音が通るであろう道を走り出した。
「爽籟も使いに出したきり帰って来やしねェ!楓も報せ持ってこねェ……まさか既にどこぞの輩に拐われちまったか?!」
一度思い浮かんだ嫌な想像は簡単には拭えない。
それどころか益々実弥の脳内を侵食していくので、顔は険しくなり走る速度も上がっていく。
相変わらず胃や心臓を煩わされ続けている実弥がしばらく走っていると、前方によく知る羽織を羽織った二人組の姿が瞳に映し出された。
一人は実弥が送った着物と同じ鮮やかな菊が染め入れられた羽織、もう一人は蝶の羽根を模したような清楚な羽織である。
それを見た瞬間実弥の心配や焦りは吹き飛び、走る速度や険しい表情そのままに二人の前まで辿り着いて……呑気に手を振っていた少女の柔らかな頬を片手でギュッと掴んだ。
「ふぎゅっ……実弥君、お迎え来てくれたのは嬉しいのだけど、この手は何でしょう?ちゃんと無茶なお願いしなかったよ?」
「俺があんだけ言って無茶言ってたら、こんくらいじゃあすまねェって分かってんだろォ。風音、今の空は何色だァ?」
風音は視線だけで空を見上げ、しのぶは空を仰ぎ見てそれぞれが納得。
何故か風音は嬉しそうに頬を赤く染めながら実弥を求めて腕をのばし、しのぶは心配性な実弥に満面の笑みを向けた。
「不死川さん、風音ちゃんの身が心配だったんですね。すみません、私が風音ちゃんに時間を下さいってお願いしたんです。今日は叱らないであげてください。ほら、風音ちゃんが抱き締め返してくれるのを待っていますよ?」