• テキストサイズ

涼風の残響【鬼滅の刃】

第21章 藤の花と全貌


返答の代わりに返って来たのは沈黙だった。
この場合、沈黙は肯定を意味していると悟った風音の手が、大切な人を失うかもしれないという恐怖から小刻みに震え出す。

しかししのぶとて好き好んで鬼を道ずれになど考えているはずもないので、駄々をこねそうになる自分を押し戻し、あくまで冷静に言葉を選んだ。

「しのぶちゃんのお気持ちは私も……分かるような気がします。私はまだまだ弱いから、上弦の鬼と一人で遭遇すればまず間違いなく負ける。だからこそ刺し違えてでも鬼を倒す、もしくは追い詰めて他の方に想いを託したいって」

「こちら側が望む総力戦の結果は鬼舞辻無惨の滅殺ですからね。上弦の鬼の頸を斬るのはその過程でしかありません。でも上弦の鬼がいなくなることにより、鬼側の戦力を削ぎ落とせます。だから……もし私が鬼に吸収される先が見えても、皆さんに情報を与えないで欲しい」

生半可な気持ちで紡いだ言葉ではない。
誰だって大切な人の側にずっと寄り添っていたい。
しのぶだってそれは同じなはず。

それでも皆に伝えてくれるなという想いは風音にも痛いほどわかってしまったが……

「しのぶちゃんに他の柱の方々が加勢したとして、万が一大怪我を負ったり命を失えば……こちらが圧倒的不利になるからですよね?」

「そうです。だから情報を与えないで……」

「それは出来ません。しのぶちゃん、私も今のところ総力戦序盤で死ぬことが予測されています。初めて見た時は自分が死んでも鬼を倒せるならって思ったんですけど……今はどんな手を使っても生き残りたいって思ってる」

本来この世に存在することさえ許されない悪鬼が生を謳歌することが許され、人のためにこの身を投げ出そうとする人の命が失われる。

その人が生きたいという純粋な想いすら断腸の思いで切り捨てる様はあまりにも辛く悲しく、胸が軋むような痛みをもよおした。

「そう思えるようにしてくれたのは実弥君やしのぶちゃん、柱の方々のお陰様なんです。そんな優しく尊い人を私は失いたくない。杏寿郎さんの時みたいに一緒に考えましょう?必ず何か手はあるはずです!」

泣いてはいけない。
今はただ悲しんで涙を流していい場面ではなく、しのぶの決意を蔑ろにせずに生きる選択を取ってもらうことが第一だからだ。
/ 985ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp