第3章 能力と剣士
それら全てが嬉しく、風音はふわりと微笑んで実弥の手を握っていない方の手でそっと頬に触れた。
「実弥さん、おかえりなさい。私、実弥さんの側に居させてもらえて本当に幸せです。実弥さんの姿を見ただけで心の中がポカポカして元気になったもの。大好きです!」
突然の告白に顔を真っ赤にした実弥は風音を小脇に抱えて急いで門をくぐり、目にも止まらぬ速さで屋敷の中へと飛び込んだ。
「実弥さん?」
突然の景色が外から屋敷内へと変化した風音が目をパチクリさせて下から実弥を覗き込むと、何か気持ちを落ち着けるかのように深呼吸を何度も繰り返していた。
それを幾つか繰り返すと風音を上がりに座らせて、自身は土間でかがみ顎に指を掛けて顔をそらさないように強制させる。
「お前、俺が男だって分かってねェのかァ?軽々しく男に向かって好きなんて言ってんな。それが親に対する気持ちと同じでも、相手には分かんねェんだぞ」
実弥の目論見通り顔を動かせない風音は、至近距離にある実弥の顔から離れることが叶わない。
何がどうなってこうされているのか分からないが、この状況は流石に恥ずかしいようで顔が徐々に赤く染まっていった。
「抜け出せる程度の力しか入れてねェだろ。早く離れろよ、何されても文句言わせないからな」
「何って……なんですか?」
本当に何が何を指しているのか分かっていないらしい。
(コイツ……村であの馬鹿どもに襲われそうになっても、何をされるか分かってなかったなァ……マジで一人で外に出しゃ襲われんじゃねぇか?)
あの時、今と同じように風音は実弥に自分の身に何が起こるところだったのかを聞いていた。
子供の時から一人で生活し、村の者から阻害され続けた弊害がまさかのこんな所で出てきてしまったのだ。
「……こうされんだよ」
顎に当てていた手を後頭部へと滑らせ、細い体に衝撃を与えないようゆっくりその体に自分の体重を預けて、風音を床に押し倒し覆いかぶさった。
「あの……お顔が近くて恥ずかしい……のですが」
「なら押し退けろよ。もっと危機感持て、外で男にこんなことされたらどうすんだァ?」