第3章 能力と剣士
「うーん……たぶん蹴り上げて悶絶させるかな?でも実弥さんのことは大好きだから、恥ずかしいけど嫌じゃないです。何だったらそのままギュッてしてほしいくらい」
呑気にふにゃりと笑い両腕を広げだしたので、自身の体を支えている片腕の力がガクリと抜けた。
「本っ当に俺に対して危機感全く持ってねェなァ!いい加減に……」
本当に突然。
実弥の言葉は僅かな衝撃と胸元に広がった温かさに中断させられた。
「…… 風音、この状況で今してることの意味分かってんのかァ?」
「抱き着いて安心してます」
背に腕を回し体を寄せる風音の体温は、隊服をはだけさせているので遮られることがなく直に伝わってくる。
危機感を持たせるためにした行為は風音によって実弥の理性が試されるものとなってしまった。
「安心すんなよ……悪かった、俺が悪かったから離れろ。お前が俺に対して危機感がねェことはよく分かった」
「実弥さんに対して危機感を持つこと……ないと思います。……ねぇ、実弥さん」
未だに離れようとしない風音に溜め息を零しながら、後頭部に当てていた手を背に移動させて起き上がらせる。
それでもやはり体が離れないので、もう離れさせることを諦めて風音の言葉に耳を傾けた。
「何だァ?」
「……私、皆さんを今日初めて見送って知ったんです。鬼殺隊の剣士になることがどういうことなのか……命を賭けて戦うことがどういうことなのか」
ずっと胸元に埋められていた顔が僅かに離れ、いやに強い光を放つ翡翠色の瞳が実弥を写し込んだ。
「怖くなったかァ?」
「怖くないと言えば嘘になります。でも、自分にも大切な人がいるように、世の中の人たちにも大切に想う人がいますよね。自分以外の人たちの心を守るために戦いに赴く貴方たちは、目眩がするほどに眩しかった。私も……貴方たちのように優しく強い人になりたい」
声音や強い眼差しに嘘偽りは全く感じ取れなかった。
恥ずかしげもなく鬼殺隊に対しての最大の褒め言葉を言ってのけた風音に、実弥の表情が優しく綻んだ。
「そう思って貰えたなら嬉しい限りだァ。なら明日からはちゃんと稽古つけてやる。弱音吐くんじゃねェぞ」
風音が笑顔で頷き返したことで、明日から厳しい厳しい稽古をつけられることが確定した。