第21章 藤の花と全貌
「風音ちゃん、少しお時間いただけますか?」
本日の共同研究を終え、本部で寝泊まりしている珠世や愈史郎が自室に帰った後。
風音はしのぶと共に帰路に着いていた。
つい先ほどまで笑顔で他愛のない話をしながら歩いていたのだが、突然問い掛けてきたしのぶの表情は真剣なものと変化してしまっている。
特に今日は無茶な願いをしていないので、何故しのぶがそんな表情になったのか分からず首を傾げるも、尊敬し大好きなしのぶの願いを退けるなど一瞬たりとも思い浮かばず頷いた。
「はい、もちろんです。ではどこかのお店にでも入りますか?私、飲み物もお菓子も鞄の中に入れているので、お外でもどちらでも構いませんよ?」
しのぶの視線がチラと風音のパンパンに膨れ上がった鞄に移動した。
いつも何をそんなに入れているのかとしのぶも疑問に思っていたようだが……どうやら菓子類もいれているらしい。
大食らいでもないのに、と子供っぽい風音の持ち物が微笑ましく小さく笑いながら、二人の側を流れる川に視線を動かした。
「お店もいいですが、風音ちゃんの力に関するお話なのでお外にしましょう。お菓子、お裾分けしていただいてもいいですか?」
「力に関するお話ですか?分かりました!ではそこの河原でお話しましょう!お菓子も飲み物も沢山あるので遠慮なく食べて下さい!」
その言葉通り、河原に座り風音が鞄を開けると、次々とお菓子や飲み物が出てきたそうな。
そうしてしばらく菓子と飲み物を堪能した後に、しのぶが本題を切り出した。
「風音ちゃん、私は鬼の頸を斬ることが出来ません。いくら毒薬を鞘の中で調合して鬼に対抗したとしても、それが上弦の鬼に通用するなんて生易しいことはないと思っています」
川の流れる様を見つめるしのぶの表情からは何を言おうとしているのか、今の言葉だけでは判断出来ず、風音はただしのぶを真っ直ぐに見つめて言葉の続きを待つことにした。
それに気付いているしのぶは薄く笑みを浮かべながら風音へと向き直り、気持ちを落ち着かせるように深呼吸して続ける。
「私は藤の花の毒を長い月日をかけて体内に蓄積させています。つまり……」
「鞘の中で調合した毒薬が通用しなければ……鬼にご自身の体を吸収させるつもり……ということですか?」