第20章 強化訓練と育手
あれから元鳴柱である桑島を家まで送り届け、二人は大先輩に深く深く頭を下げてから不死川邸へと帰ってきた。
そして現在、複雑な気持ちを胸の奥に隠しながら、いつも通りに剣士たちへとそれぞれが稽古をつけ終え、二人はサチと共に散歩へと赴いているところだ。
「どうして鬼になりたいって願ったんだろう……とか不毛なこと考えてんだろ?」
いつもならサチと笑顔で走り回り実弥が追い掛け回す羽目になっているのに、今日は家を出てからずっと静かに歩いているだけ。
ご近所で名物になるほどの楽しげな声はなりを潜めており、物悲しい雰囲気が漂っている。
それもこれも自ら望んで鬼となった獪岳が要因だと聞かなくても分かる。
そして風音から返ってきた答えは実弥が考えていた通りだった。
「え?あ……うん。私は獪岳さんじゃないからいくら考えても分からないんだけどね」
「本人に聞かねぇ限り誰にも分かんねェよ。獪岳……確か壱ノ型だけ習得出来てなかったんじゃなかったっけなァ。で、えらくひねくれてたって聞いたことある」
どうやら実弥は獪岳の存在を認識していたらしい。
壱ノ型だけ使えなくとも今まで剣士として人を助けてこられたのであれば、強さを求めて鬼になる必要は全くないように思えるが。
「そうだったんだ……壱ノ型使えなくても十分強いよって誰かに認めて欲しかった……としても、やっぱり胸の中が色んな感情でぐちゃぐちゃになる。望まず鬼にされて苦しむ人がいっぱいいるのに」
憤りや悲しみを含んだ声音で呟いた風音は立ち止まって跪き、少し寂しそうにチラチラと何度も二人の様子を伺っていたサチの体をふわりと抱え上げた。
それでも複雑な心境は拭い取れないようで、実弥の前で今にも涙を流してしまいそうな一人と一匹が寄り添っている。
一難去ってまた一難。
せっかく決意を新たに成すべきことを目標に掲げ頑張ろうとした矢先にこの出来事。
しかしいつまでも悩んでいたとて時は待ってくれない。
実弥は金の髪と白い毛をふわふわと撫でる。
「あんま深く入り込み過ぎんなァ。さっきも言ったが馬鹿から塵屑野郎に成り下がった奴の考えなんて、俺らがいくら考えても理解出来るもんじゃねェだろ。俺らが出来んのは頸斬るだけだ」