第20章 強化訓練と育手
「うん……じゃあ私は目下のことを遣り遂げることに集中する。しのぶちゃんと研究一緒に頑張るね。あ、私思ったんだけど、私の血って能力使う毎に毒要素強くなるでしょ?つまり特殊な成分が変化してるってことだと思うの。だから一週間おきに可能な限り血を……うぎゅ」
様々な感情に区切りをつけ、風音が気持ちを切り替えられたことは賞賛に値する。
悩み続けても解決しないのだから、目下のことに……と目を向けたのは実弥とてホッとするものだったが、目下のことについて暴走するのはいただけない。
血管を浮き上がらせながら言葉を遮るために掴んだ風音の頬には冷や汗が流れ出した。
「可能な限りってどんくらいだァ?お前の憶測や考えはともかくとしてだ……血ってそんなホイホイ作られるもんじゃねェよなァ?胡蝶にも言われてなかったか?無茶すんなってよォ!」
「あ、いえ……どれくらいかと言われると失血死しないくらいかなぁって。使えるものは使えるだけ使わないと勿体ない……なんて!思ってたけど、体に負担ない程度にしておきます!い、いたた!ほっぺた陥没しちゃう!」
みるみる険しくなる実弥の表情に風音は方向転換。
しかし頬を掴む手の力は緩めてもらえず、サチが見兼ねて実弥の手をぺろぺろと舐め出すほどである。
それでようやく手の力が弱まり、代わりに柔い力で頬をきゅっとつねられた。
「自己犠牲で全て解決しようとすんな。言い方は悪ィがお前の血や能力は総力戦で俺たちにとって切り札なんだよ。何より……テメェの女が昏睡状態なる姿なんざ見たくねェ」
悲しげに歪んだ実弥の表情が風音の瞳に映し出されたかと思えば、次の瞬間には視界が暗くなり、体全体が心地よい温かさで包み込まれた。
「返事」
「え?」
突然の言動に完全に思考を停止させていると、頬にあった手が顎に掛けられ顔を見るように促された。
「分かったのかって聞いてんだ。分かったなら返事出来んだろォ」
こめかみがピクピクと動いている。
相も変わらず心配してくれる実弥の気持ちが嬉しく、凄まれているのに背に腕を回してサチを挟むかたちで抱き着いた。
「はい!いつも心配してくれてありがとう!大好きです!」
「……締まりねェ」
風音に凄んだとていつも通り緩々で終わってしまった。