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涼風の残響【鬼滅の刃】

第20章 強化訓練と育手


その痛みに気付いた実弥は小さく溜め息を零して風音の頭を軽く小突き、老人と視線を合わせるためにしゃがみ込んだ。

「爺さん、俺は爺さんの行動に疑問を持っちゃいねェし、俺が同じ立場なら同じことする。だが俺なら弟子の頸斬ってからだ。爺さんが元弟子の頸斬んの難しいだろうが、責任取るなら最期まで見届けてからじゃねェのか?」

実弥の真剣な眼差しや声音に老人は視線を地面に落とし拳を強く握り締めた。
痛みを伴っているであろうその拳の痛みを和らげようと、風音は実弥と同じようにしゃがみ込み、皮膚を破らんばかりの力が込められた拳を両手で包み込む。

「彼は私の師範だったんです。鬼に狙われいつ鬼にされるか分からない身の私を柱にまで育て上げてくれました。私は……弟子の立場だった剣士の想いは……やっぱり師範に生きていて欲しい。誰よりも尊敬し愛する師範には……生きていて欲しいと思います」

断腸の思いで決断した自刃を簡単に止めることなど、風音にだって容易ではないと分かっている。
それでも想いを伝えなくてはと、込み上げてくる涙を必死に押し戻して言葉を続けた。

「まもなく鬼との総力戦が始まります。そこで間違いなく……こちらも多くの犠牲者が出るはずです。だから……どうか……自ら命を絶たないで下さい。誰かが亡くなるところを……これ以上見たくないんです。勝手な願いだと分かっていますが……どうか」

拳を包み込み瞳を潤ませている少女は、隊服の釦の色から柱に違いないと老人にも理解出来た。
しかし柱らしからぬ言葉に戸惑いを覚え、思わず柱たらしめる言葉を発した実弥を仰ぎ見た。

「だとよ。コイツは人の生き死にに敏感に反応しちまう。これから鬼殺隊全体の力付けなくちゃなんねェって時に、爺さんに死なれちゃあ柱稽古に支障出るんだよ……」

頼みの綱の風柱も何故か夙柱寄りに……と言うより、夙柱の心を必死に守ろうとしているように見える。

育手ならば弟子の不祥事の責任を取ることは必然である。
しかし兼ねてより小耳に挟んでいた、総力戦に備えるために設けたと言われている柱稽古に支障をきたす……と言われてしまえば、鬼殺隊に関わる者として命を絶つことが躊躇われてしまった。
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