第20章 強化訓練と育手
二人に何も告げず爽籟と楓が飛び立ったということは、それなりの理由があるからなのだろう。
それこそ風音の言う通り、鬼になったかもしれない剣士について本部から呼び出しがかかったのかもしれない。
「そうかもしんねェ。アイツらを待つ時間もねぇし、ここらへん虱潰しに探すぞ。何箇所か心当たりある……着いてこい!」
不安げに瞳を揺らす風音の頭をポンと撫でて先導すると、その後を慌てて着いてきた。
あれから数十分経過し、実弥の心当たりのある場所を一つずつ巡っては先の光景で見た河原を探した。
幾つか河原に辿り着くがそのどこも望んでいる場所ではなかった。
実弥の知る場所ではないのかもしれない……不安を胸に過ぎらせながら辿り着いた最後の場所。
そこは頭の中に流れ込んできた光景と寸分違わぬ河原であった。
「ここ……あ、実弥君!あそこにお爺さんが!」
「間に合ったか。おい!爺さん、早まんなァ!俺は鬼殺隊 風柱、コイツは夙柱だ!」
川に向かい姿勢を正し座しているのは小柄な老人。
右手には短刀が握られており、今正に腹に突き立てようとしている。
風と夙はどちらとも速度に秀でているので、その場まで瞬時に駆け寄り短刀を弾き飛ばすなど容易な事だった。
「……お主ら、本当に鬼殺隊の柱ならば何故儂を止める?」
二人に向き直った老人の目には恐怖など一切映していないものの、酷く憔悴しているように見える。
「貴方は……やはり鬼殺隊に関わる方だったんですね。改めまして、私は鬼殺隊 夙柱 柊木 風音。こちらは風柱の不死川 実弥さんです。とある事情により貴方が切腹しようとしていることを知り引き止めに来ました。私の前で命を絶たせる訳にはいきません」
「……こんな場所に柱が来るとは思わなんだ。まだ事情を知らぬようなので説明します。儂の弟子の一人が望んで鬼となり人を喰い、十二鬼月になったと知っても尚、儂を止めると申しますか?」
実弥の言った通りのことがこの老人に降りかかっていた。
そしてその責を取るために自刃しようと刃を腹に突き立てようとしていたのだ。
鬼に狙われる身となり、一つ選択を違えていれば目の前の老人の立場と実弥の立場が同じになっていたのだと思うと、風音の胸が軋むような痛みをもよおした。