第20章 強化訓練と育手
そんな中で風音が皆より抜きん出ていることといえば薬学や応急処置だ。
力量で劣るならば、自分が持ち合わせている知識や技術を向上させたい……と言うに違いないと確信していたのが、本日確証に変わった。
「そうかィ。稽古や鍛錬を疎かにしねぇなら、そっちに手ェ付けるのに反対なんてしねぇよ。ただお前は予知も使うんだ、あれもこれもって望み過ぎて体壊すなよ?」
抱き寄せ顔は見えないのに風音の表情が綻んだと何となく察することが出来た。
背に回された腕の力が僅かに強くなり、胸元にピタリと引っ付けられている頬がふわりと動いたからである。
「何喜んでんだァ?何か変なこと言ったかよ?」
「フフッ、心配してもらえるのってやっぱり嬉しいものだから。それにしても実弥君は凄いよね。私の感情全部感じ取っちゃうんだもん」
毎日毎日飽きもせず愛情表現を大っぴらげにされていては、意識していなくても嬉しいなどの感情は僅かな動きで感じ取れてしまうというもの。
特に風音は感情表現が豊かなので、どんな感情も感じ取れやすいのだが。
「そりゃあお前が分かり易い反応するからだろうが。ほら、そろそろ家帰んぞ。帰って稽古の続きをアイツらに……今度はどうしたァ?!体、震えてんじゃねェか!」
和やかだった雰囲気は一変。
実弥の胸の中でニコニコしていた風音が、何かに怯えるように震えだしてしまった。
何があったのか問いただすために手を頬に当てて自分を見るよう促すと、悲壮に満ちた風音の表情が瞳に映り、実弥の胸を激しく掻き乱した。
「落ち着け、何か頭ん中に流れてきたんだろ?何が見えたァ?纏まんなくても構わねェから俺に話せ」
風音が口を閉ざしてしまわないよう可能な限り穏やかに言葉を掛けると、震えた声が喉から絞り出されてきた。
「……切腹。知らないお爺さんが近くの河原で……自分のお腹を……切る未来が見えた。……今の時代の刑罰に切腹なんてないよね?!罪を犯してない人がどうして切腹するの?!と……止めないと!」
取り乱した風音の頬には涙が流れ、更に実弥の胸を掻き乱していく。
実弥とて何がどうなって老人が切腹を行うかなど見当もつかないが、まずは目の前で嘆き悲しむ少女を落ち着かせなくてはと、視線を合わせるようにかがみ込んだ。