第20章 強化訓練と育手
ここ最近で風音が1番驚いたこと。
それは実弥よりも早く岩を動かせたことよりも上回った。
行冥の特殊な日輪刀である。
太い鎖の両端にそれぞれ繋がれた棘のある鉄球と、斧のような刃物。
柱合会議の際は特殊故に持ち歩きしておらず、実弥と行冥との手合わせ見学で初めて目にしたのだ。
そして実弥がお館様を除き鬼殺隊内で唯一敬語で話す行冥の力量は武器の大きさをものともしないほどに凄まじく、見ているだけで目眩が起きそうなものだった。
実弥の力量は鬼殺隊のみならず柱の中でも上位に分類されるので、誰かに助言をされるところなど見たことがなかった。
行冥に助言をもらい、素直に受け入れる姿も新鮮で風音にとって得たものの多い一日だった。
「実弥君と悲鳴嶼さんの手合わせ、凄い迫力だったよね。私との手合わせじゃあ、物足りなかったんじゃないかって思っちゃう」
行冥との手合わせは二日に分けてそれぞれ行ってもらい、本日は風音が手合わせを敢行し現在はそれも終えて帰路についているところだ。
「俺でさえ体格差があんのに、悲鳴嶼さんと風音じゃあ仕方ねェだろ。けど悲鳴嶼さん、お前と手合わせすんの嬉しそうだったしいいんじゃねェの?また手合わせする機会はあんだから、それまでに力付けとこうぜ」
嬉しそうだったのか風音には分からないが、実弥が言うことであるし、行冥も嫌がることなどなく快く手合わせを受けてくれたので、そうなのかもしれない。
そう思い直し、風音は立ち止まり実弥が握ってくれている手を離して、両腕を目一杯広げた。
いきなりの行動に実弥は一瞬動きを止めたが、何を求めているのか瞬時に理解して体を抱き寄せ、願いを叶える。
「ここでかよ。山ん中とは言え外でねだってくんの珍しいなァ。何かあったか?」
「実弥君に一緒に強くなろうって言ってもらえたのが嬉しかったから。私ね、少しでも実弥君や悲鳴嶼さん、柱の皆さんに早く追い付きたい。それとね、お稽古が落ち着いたら、しのぶちゃんの研究に顔を出して、医療の技術も教えてもらいたいの」
日に日に総力戦が近付いてくる中で、いつか風音がこう言ってくることを実弥は予測していた。
柱として剣士たちよりも更に強くなることは当たり前。
しかし限られた時間の中で他の柱に追いつこうにも限界というものがある。