第20章 強化訓練と育手
一方、実弥の怒鳴り声すら耳に入らないほどに懸命に岩を押し続けていた風音は、肩を軽く叩かれたことによってようやく動きを止めた。
顔に流れる汗を拭うことすらせず肩を叩いた人物を振り返って確認すると、涙を流しながら穏やかな笑みを向けてくれている行冥の姿があった。
「悲鳴嶼さん、どうかされましたか?何か……至らないところがあればご教授ください!」
「いや、至らないところはない。柊木の稽古は今を持って終了した。一町以上岩を動かしている。後ろを確認してみなさい」
まさかの言葉に行冥を通り越して言われた通りに後ろを確認すると、何やら肩をいからせているように見える実弥の姿が遥か先に小さく見えた。
「え……あ……わぁ!悲鳴嶼さん!私、岩を動かせたみたいです!実弥君や鬼殺隊の皆さんのことを心の中で思い浮かべたら、体に力がグッと入ったんですよ!思い浮かべるだけでこれなら、声に出せばもっと力が入るかもしれません!」
風音は声に出したつもりはなかったらしい。
そんな無邪気に喜び実弥へ手を振る風音の頭をポンと撫てやり、満面の笑みで応えた少女へ。
「柊木の想いはこの場の全員に届いている。あんなに華奢で人を恐れていた君が大切なものを見つけ、こうして強くなり笑顔になれたことを私は嬉しく思う。柱として共に研鑽していこう」
一瞬、何を言われたのか分からず固まった。
しかし行冥の言葉が何を指しているのか、そして自分に向けて何を言ってくれたのかを理解すると、風音の笑みは更に深まり、無意識に行冥の手を握り締めていた。
「声に出ていたんですね。悲鳴嶼さん、私は実弥君と出会って鬼殺隊に入り、たくさんの大切でかけがえのない人たちに出会えました。初めてお会いした日から……暖かく見守って下さり……本当にありがとうございます。悲鳴嶼さんも私の宝物です」
いつの日か実弥が言っていた。
風音はよく泣くが根性が座っていて育てやすいと。
それは的を得た言葉だった。
しかし実弥が育てやすいと言っていた意味がようやく全て理解出来た。
「柊木、私は目が見えない。だが君の言葉や声音は不思議と君の感情をそのまま私に伝えてくれる。素直で真っ直ぐなものだからこそ、不死川だけでなく、私や後輩たちの心に響くのだろう。私も柊木を宝物だと思っている」