第20章 強化訓練と育手
そうして二人して漕ぎ着けた岩押し稽古。
どうやら体格によって岩の大きさは変わらないらしく、仲良く横に並んだ二つの岩は動かしてくれと言わんばかりに、圧倒的な存在感で鎮座している。
「大きいね。……うん!悩んでても仕方ない、では実弥君。お先に失礼します!」
「あいよー」
そう言って風音は対戦相手なのに緩い実弥に見守られながら、自分より遥かに大きく重い岩に手を当てて踏ん張った。
……一分経過。
羽織は破れてしまわないように脱いでいるので、実弥からは白い腕が見える状態だ。
その腕には痣が出ており、かつてないほどに血管が浮かび上がって今にもはち切れそうである。
「お……重いっ!全身の血管が悲鳴あげてる!」
「無駄口叩く余裕あんなら目の前の岩に集中しとけェ。そんなんじゃあ、俺に先越されんぞ」
風音の目が血走りかけた頃、実弥は自分に与えられた岩に手を当てて足が地面にめり込むほどに踏ん張った。
それを目にした風音の体中から冷や汗が吹き出す。
それもそのはず、実弥の頬にはくっきりと風車を模した新緑の痣が浮かび上がったからである。
このままでは実弥に先を越されてしまう。
何が自分の原動力だったのか。
今まで行冥の稽古で学んだことは何だったのかを頭を全力で回転させて巡らせた。
「はぁぁ……私は実弥君が大好きです!実弥君の穏やかな笑顔を見たい!でも私は欲張りだからっ!優しく強い人たちを守りたい!」
久方ぶりの風音のところ構わず大声での愛情表情攻撃。
その攻撃は実弥にはもちろん、滝行をしながら二人の様子を伺っていた剣士たち、そして木の影からこっそり見守っていた行冥の耳に届いた。
実弥は体から力が抜け、剣士たちの内何名かが川に流され、行冥はにこやかに涙を流しながら目にしたものは、風音の岩がゆっくりと動き出した光景だった。
「嘘だろォ……あんなこと叫んで岩動かしちまうのかよ。……テメェらァ!何こっち見て笑ってやがんだァ?!今笑ったヤツら……俺の稽古で扱き倒してやる、覚えとけェ!」
実弥の照れた顔を初めて拝めた剣士たちの代償は、実弥の稽古による果てしなく厳しい稽古だった。