第20章 強化訓練と育手
風音と途中から合流した実弥が作った昼餉を皆でいただき、現在は再び滝の中……実弥が三本、風音が二本の丸太を肩に担いだ状態で。
「ねぇ、実弥君……私、お経よりも実弥君のこと考えてた方が……丸太の重さ感じない気がする。実弥君のこと考えてていい?」
今にも丸太に押し潰されそうになりながら言葉を紡ぐ風音に視線のみを動かしてみると、水分を含み重さの増した丸太にやはり押し潰されそうになっている風音の姿。
何となく助けてやりたくなる様相だが、これは行冥の稽古の一環。
手を貸すことはせず言葉を返した。
「……好きにしろ。それでお前が丸太に押し潰されずにすんだら滝行から解放してやるよ。押し潰されりゃあ、お前は明日まで滝行だからなァ」
(言えねェ……俺もコイツと玄弥のこと一心不乱に考えながら滝行してるなんて言えねェ……)
素っ気ない言葉とは裏腹に、考え実行していることは風音と一緒だったらしい。
そんなことを知らない風音は目をキラキラさせた後に目を瞑り……右前腕に痣を発現させて瞼を開けた。
それに伴い押し潰されそうだった体は元気を取り戻し、丸太は風音の肩の位置まで浮上。
「ほら!実弥君のこと考えたらこの通りだよ!これで私も実弥君と一緒に岩押すお稽古に入れる!よかったぁ!」
丸太を担いでいるとは思えない嬉しそうな声音に、普通に滝行をしている剣士たちも目を見開きビックリである。
しかし実弥にとっては予想通りの結末だ。
この際互いに何を考えて体勢を維持しているのかはさて置き、風音は自分で宣言したことはやってのける。
出来ないことは素直に教えを乞うが、出来ると確信し言葉にしたことは今までもやってのけてきたので、細い体で丸太を抱えあげようと何だろうと納得できるものだ。
「お前の負けず嫌いも大概だなァ……まァ取り敢えず、その丸太河原まで運んで岩動かす稽古入んぞ。……で、俺が勝ったら何してくれんだよ?」
「ん?私がいっぱいギュッてする!」
勝っても負けてもどちらも変わらない……
イマイチ勝負する意味があるのかは分からないが、風音のやる気に繋がるのならばと、実弥は特に突っ込むことなく望むままさせてやることにした。