第20章 強化訓練と育手
「あぁ、構わない。私の稽古を受けている間、好きに屋敷を使うといい。食事も各々好きな時に取り風呂に入るも休むも自己判断で行いなさい」
大きな体躯であるが静かな声音は安心感をもたらし、全てを己の判断で決めなくてはいけないであろう行冥の稽古も、何だかこなせるような気さえする。
「ありがとうございます!……ヒグッ!んっ……お言葉に甘えて着替えさせていただきます。少し早いですがお昼ご飯も作っておくので、よろしければ悲鳴嶼さんも皆さんも食べてください!……クシュン……では!」
くしゃみを我慢して変な声が出たなんて気にしない。
風音は鞄を肩にかけると、実弥や行冥、剣士たちへと頭を深く下げて悲鳴嶼邸のある場所へと駆けていった。
その姿を見送り実弥は小さく溜め息。
「相変わらず落ち着きねェ……すんません、悲鳴嶼さん。騒がせて……」
「気にするな。女子の身でありながら滝行に耐えていたのだろう?くしゃみをしてはいるが、滝行の後にあれだけ元気があれば見上げたものだ」
呆れず見守ってくれている。
稽古中はあまり姿を見せないものの、遠くから静かに剣士たちの様子を確認してくれているからこその言葉だろう。
自分とは全く異なる稽古方法ではあるが、自己責任と言いつつ導く手を繋ぎ続けてくれる行冥に実弥は僅かに笑みを零した。
「根性だけは保護した時から座ってやがるヤツだったんで。あ、悲鳴嶼さん。昼から岩押してみるんで先に丸太借りますね。俺と風音の二人分。担いで滝行したいんで」
「そうか、柊木も昼から岩を……それならば岩は私が用意しよう。丸太は不死川が柊木の分も用意するか?」
流石に重い岩は行冥が用意してくれるらしいが、更に厳しさを増すための丸太は各々。
二人にとって当たり前の会話に剣士たちが身震いする中、実弥の返答に更に身震いすることとなる。
「いえ、風音の分は風音に運ばせます。岩動かすんすよ?丸太くらい運べなきゃ話になんないでしょ?」
「そうだな。だがあまり無理をさせ過ぎて資本である体を壊させないように。倒れてしまえばことだ」
「無理はさせませんよ。ただアイツ、俺より先に岩動かすって息巻いてんでねェ。これくらい出来るはずです」
……無謀な風音の挑戦に行冥でさえ言葉を閉ざし、代わりにお経と涙を流した。