第20章 強化訓練と育手
「コイツがせっかく着けた火無駄にすんなァ。それにお前ら、まだ岩動かせる手立て見つけてねェだろォ。コイツも俺も昼過ぎには岩押し始める。お前らより明らかに腕力弱ぇコイツに先越されんだぞ?せめて体あっためてしっかりその姿目に焼き付けとけ」
(あれ?私が促すことによって、剣士の皆さんが休憩しやすいように滝行中断しろって言ったんじゃなかったの?!た、焚き付けるためだったの?!)
どうやら二人の考えは相違していたらしい。
あくまで実弥は剣士たちを厳しく律するため、風音は優しさから休憩時間を設けていた。
しかし実弥は考えの相違があったなど知らない。
……例え知っていたとしても己の考えを変える者ではないのだが……
ともあれどちらにしても剣士たちに休息が必要だったのは確かなようだ。
冷や汗をひっそり流しながらニコニコと微笑む風音を怯えたような瞳で見つめながら、剣士たちは火の前へと戻って行った。
「怯えられてる……まだ岩を動かせるか分からないのに。……クシュン!さ、寒い!火……火を着けないと」
小さなくしゃみに反応したのは実弥だけでなく剣士たちも同じく。
明らかに自分たちよりも小さな体で滝行を耐え切った少女に風邪を引かせるものか。
例えその小さな体で岩を動かせるかもしれない怯える対象であったとしても、数少ない少女剣士を蔑ろにするものか。
そんな思いで動きかけた剣士たち……実弥に至っては既に風音の隣りに移動して体をさすってやっていたのだが、そこへ更に暖かなものがもたらされた。
絶対的な安心感を柱を含めた剣士たち全員に与えてくれる人が、二人の集めた枯れ枝に火を灯してくれたのだ。
「悲鳴嶼さん、実弥君、ありがとうございます!体だけじゃなくって心も暖かくなりました!皆さんもありがとう、心配してくれたの凄く嬉し……ハッ……クシュン!」
「悲鳴嶼さん、ありがとうございます。……不躾なんですがコイツ着替えさせてやってくれねぇか?体冷え切っちまってるみたいで」
くしゃみの止まらない風音の周りには実弥や行冥だけでなく、まるで風を遮るように剣士たちが集まってきている。
様々なことが嬉しく感謝を述べたいのに…… 風音のくしゃみは止まらない。