第20章 強化訓練と育手
怒っているような呆れているような声に振り返ると、そのどちらともを映した実弥の顔。
それでもこうして隊服を貸し与えてくれたことが嬉しく、頭から被せてもらった隊服を元の正しい位置まで戻し、笑顔でぺこりと頭を下げた。
「ごめんなさい、ちょっと隊服が重くて。でも……フフッ実弥君の隊服あったかい!ありがとう」
濡れた体に乾いた隊服はとても暖かく、その暖かさと実弥の暖かさに表情を綻ばせたまま再度鞄へと手を突っ込み、まずは実弥へ手拭いを。
更に次々と水の中から脱出してはこちらへ近寄ってくる剣士たちへと手拭いを手渡していく。
「いつも思ってんだが、その鞄どうなってんだァ?どう考えてもこの量の手拭いなんざ入んねェだろ」
「え?普通の鞄だよ?手拭いを風呂敷で包んで上からギュッて力を入れて固定すると、意外と小さくおさまるからね!さ、火にあたりましょ!あったかいよ?」
いつの間にか落ち葉やら枯れ枝で火が灯されており、気が付けばそれを遠慮し遠巻きに見ていた剣士たちへと声をかけて譲り、風音はしゃがみこんでせっせと落ち葉と枯れ枝を集め出していた。
「納得いかねェ……そんなんでこんな量絶対入んねェし……って今度は何してんだ?石ころなんか握り締めて」
石を片手に枯れ枝を集める風音の頭を、鞄から引っ張り出した新しい手拭いで拭いてやると、大人しくじっとしたままだった風音が、地面に落ちている石と手に握っていた石を交換して実弥に差し出してきた。
「石がお日様の暖かさを吸収して天然懐炉になってるの。ほら、握ってみて?」
そう言われて差し出された石を受け取り暖かさとやらを確認すると、確かに冷えた手にじんわりと暖かさが広がった。
「なるほどなァ、それは分かった。分かったが寒ィなら先に体拭けよ……相変わらず世話かかるヤツだよ、お前は……」
天然懐炉でいくら暖を取ったとて体が濡れていれば気休め程度にしかならない。
実弥は寒さから僅かに震えている体に数枚の手拭いを被せてやり、手に握られていたマッチと枯れ枝を引ったくって、柱自ら枯れ枝集めを始めだした。
このように風音にいつも通り優しい実弥に風音は手拭いを体に巻きつけながら、自分もと笑顔で枯れ枝集めを開始する。
それを見た剣士たちは慌てて立ち上がり……実弥の鋭い眼光にその場で固まった。