第20章 強化訓練と育手
「「一切我今皆懺悔南無阿弥陀仏ーー」」
聞こえてくるのは水が激しく叩きつけられる音とお経。
水の音は轟音で普段ならば人の声や会話など掻き消されてしまうほどのものだが、今は多くの剣士たちが一斉に声を張り上げているのでお経もはっきりと聞こえてくる。
その剣士たちの中には風音と実弥も混じっており、所謂滝行をしながらお経を唱えている状況だ。
行冥の稽古場はこの滝行を行っている水場やその周辺。
近くに岩が置かれていないところを見ると、今は岩を運ぶまで誰も到達していないのだろう。
(水が冷たくて水圧強くて痛い……でも実弥君はもちろん他の剣士の方たちに負けていられない)
今は夏ではないので、行冥の稽古場のある山の中の滝から流れてくる水は容赦なく剣士たちの体温と体力を奪っていく。
こと風音においては周りの青年たちよりも体が小さく筋肉量も少ないため、それは顕著である。
それでも気力だけでどうにか意識を保たせ、実弥たちに負けじと声を張り上げお経を唱え続ける。
「……おい、風音。一旦出ろ、んで体あっためてから戻ってこい。風邪引いたら元も子もねェぞ」
確かに実弥の言う通りだ。
しかし合同強化訓練で、柱である風音に他の剣士たちを差し置いて離脱しろなど、いつもの実弥ならば言わない。
何か意図があるのでは……とお経を中断して辺りに目を配らせ、なるほどと納得した。
「分かった!皆さんも一度外に出て体を温めましょう!実弥君の言う通り、風邪を引いてしまってはお稽古を続けられなくなりますからね」
そう皆に声をかけると、風音は慎重に滝から抜け出して河原へと身を寄せる。
そして濡れて重くなった隊服を近くの木の枝に引っ掛け、例の鞄に手を突っ込んで……何故入っているのかは不明だがマッチを取り出した。
「火を焚いて……後は手拭いで体を拭かなきゃ。襯衣が冷たい」
体をフルリと震わせたと同時に何かが勢い良く被せられ、視界は一気に遮られた。
「お前は本っ当に危機感育たねぇなァ!サラシ巻いてっからって襯衣一枚になんなよ……ったく、これ被っとけ」
まだ滝行を続けるはずだった実弥がいつの間にか風音のすぐ背後に来ており、脱いでいた自分の隊服を頭の上から被せた。