第20章 強化訓練と育手
結局、次の日も実弥と杏寿郎には惨敗。
しかし朝に剣士たちへ全力で稽古をつけたものの、前日より長時間二人と渡り合え、木刀がささくれだったので反省点を改善し成長したものと伺える。
「実弥君、悲鳴嶼さんのお稽古って大きな岩を一町先まで運ぶ……っていうものだったよね?実弥君はすでに運べるの?」
杏寿郎が帰宅して暫く、柱たちと連絡を取り合い、手合わせの日程や稽古に混じる日を事細かに決めた。
と言うのも、総力戦が刻一刻と迫りつつあるので、風音の能力でその時の様子を見なくてはならないからだ。
まだ風音が心を痛めに痛めた未来しか見ておらず、柱稽古が上手く回り出したこの時を以て、対策会議を兼ねて見なくてはいけないと柱全員が思い至ったからである。
そして今日。
実弥は自邸にやって来ている剣士たちに厳しい厳しい自己鍛錬を課し、風音を連れて行冥の屋敷へと向かっている。
風音には行冥の稽古を付けさせるため、自身は稽古を早々にこなして行冥と手合わせするためにだ。
「いや、岩なんて普段運ぶもんじゃねェし、やったことすらねェよ。剣士の中で悲鳴嶼さんの稽古突破してる奴もいるんだから、運ぶコツみたいなもんはあんだろ」
「つまり私みたいに腕力があまりなくても運べる方法があるってことか……私はともかく実弥君はあっと言う間にお稽古終わらせちゃうんだろなぁ。でも私は手合わせで実弥君に敵わないぶん、お稽古は私のが早く終わらせるから!」
変に対抗意識を燃やしてくる風音を流せるほど、鬼殺隊に関わることで実弥は大人になれない。
「いい度胸じゃねェか。腕力も少なからずいる稽古で俺に勝つつもりかよ。受けて立ってやる、負けても泣きべそかくんじゃねェぞ!」
「泣かないよ!腕力は確かに私の方が弱いけど、腕力じゃない何かで実弥君に絶対勝つから!私が勝ったら、いっぱいギュッてしてね?」
勝ったご褒美は抱き締めることだけでいいらしい……
せっかくやる気満々で気合いを入れたのに、実弥は肩透かしをくらった気分になりながらも頷き返した。
「望むことなんでもしてやるよ。……勝てたらな」
実弥の挑発も虚しく、ご機嫌になった風音は足取り軽く悲鳴嶼邸へと実弥と共に足を動かした。