第20章 強化訓練と育手
「はい。……やっぱり強いです。私だけ傷だらけですし……」
普段は落ち込まない風音が珍しく落ち込んでいる。
いつもなら反省点を述べて元気な笑顔で実弥の手を引っ張り家路を歩くはずの風音に実弥が歩み寄り、ポンと頭を撫でた。
「焦んなっつってるだろ。つい最近までお前の師範だった俺が、柱なったばっかのお前においそれと負けるなんざ柱の名折れだ。俺らに勝ちてェなら落ち込む前にすることあんじゃねェのか?」
「君の立ち直りの早さには定評がある。俺としても不死川がいつも言っているような元気な笑顔が見たい。互いに全力を尽くしたのだから負けたと言えど、それは恥ずべきことでも落ち込むべきことでもない」
と二人に言われて暫し逡巡。
(落ち込む前にすること……うん、落ち込んでても仕方ないもんね。連戦連敗は流石に堪えたけど、特筆した才能に恵まれてるわけじゃないんだから努力あるのみだ)
どうやら柱二人と連戦して連敗したことが落ち込んだ要因らしい。
勝てるなどと安易に考えていたわけではないだろうが、突き付けられた実力の差に不甲斐なさを感じていたようだ。
それでも二人の言葉でどうにか折り合いをつけて気持ちを切り替えると、静かに待ち続けてくれている実弥と杏寿郎に笑顔を向けた。
「明日、実弥君には体の柔さを前面に出して技の回避を頑張ります。杏寿郎さんは技の切り替えが速く後手後手に回っていたので、遅れを取らないように動きをよく見ることを意識します。お二人共、手合わせありがとうございました!」
ようやくいつも通りに戻った風音は笑顔で実弥の手を握り……少し悩んだ末に杏寿郎の手首を握って不死川邸へと引っ張り歩く。
杏寿郎の手首を掴んだのは風音なりの実弥への計らいなのだろう。
それを分かっている実弥は少々複雑な気持ちになるものの、その事について触れず、手を握り返して後ろへと引いた。
「明日の手合わせは昼からにすんぞ。今日アイツらに休み与えてやったからなァ、朝は煉獄も混じえて稽古で扱き倒すぞ」
「杏寿郎さんも一緒に?何だか新鮮でいいですね!杏寿郎さん、よろしくお願いします!」
実弥の険しい雰囲気の中に穏やかな雰囲気漂う二人の遣り取りに笑みを零し、杏寿郎は大きく頷き返した。
「正しく合同強化訓練だな!是非とも参加させてくれ!君たちの稽古に興味があるぞ!」