第20章 強化訓練と育手
「ううん。私こそ大きな声出してごめんなさい……実弥君と杏寿郎さん相手に……その……感情剥き出しに怒ってしまって……」
シュンと項垂れる風音の前にいる実弥、薬を飲み終え二人の側にやって来た杏寿郎は顔を見合わせて、どちらからともなく小さく吹き出した。
「あぁ、確かにお前が『もう!』って言うの初めて聞いたなァ!ハハッ、てか人相手にお前も怒れんだな」
「フフッ、すまない。俺も君が怒りを露わに出来るのだと知って安心した。俺の父上に手を上げられても怒りを露わにしなかったと聞いていたからな、不謹慎だと分かっているが今の状況を嬉しく思う」
二人に限ってないとは思っていたが、フイッとそっぽを向かれたらどうしようかと思っていた。
しかし返ってきた反応は嬉しそうな笑顔と言葉だった。
それにホッと息を着くも、未だに笑われ続けていると複雑な気持ちになるというもの。
「わ、私だって人に怒ったことあるよ!あの村の人とか……他は……誰だろう?」
涙を拭って思考を巡らせ数秒後。
ふわりと大好きな暖かさに全身が包み込まれた。
「悪ィ、風音は俺らに怒んねぇから心配してたんだよ。言いたいことあんのに我慢してんじゃねェかって。別に怒ることを推奨してるわけでもねェが、言いたいことあんなら我慢すんな。今日みたいに俺にも煉獄にも言って構わねェ」
胸の中におさめた風音を見遣ると大人しくじっとして耳を傾けているように見える。
出会った頃から変わらず抗うことを知らない風音に言葉を続けた。
「……怒ってる風音の顔、ガキみてぇで可愛かった。つい構いたくなっちまうくらいになァ」
至近距離で聞こえる言葉に風音の体はピクリと反応し、そろそろと顔を上げて実弥の顔を見遣る。
「えっと……可愛いって思ってもらえて構ってくれるのは凄く嬉しい。でも……前みたいに一人の女の人としても接して欲しい。あの……?!」
パチンッ!
口を押さえてももう遅い。
出てしまった言葉はなかったことに出来ないのだから……
キョトンとする風音を後目に杏寿郎へ真っ赤になった顔を恐る恐る向けると……目を全開にして明後日の方向を見つめていた。