第20章 強化訓練と育手
朝から実弥が疲労を覚えてしまったが今は至って元気そのものである。
と言うのも木刀を手に杏寿郎と向かい合い手合わせを行おうとしているところだからだ。
(そう言えば柱同士の本格的な手合わせって初めて見るかも。大丈夫かな?稽古場壊れない?)
稽古場は人里から少し離れた場所に設けられているので、例え柱同士が本気で手合わせしても被害を被る人はいない。
被るとすれば見学を言い渡された風音と、近くに生えている木々や草や稽古場そのもの。
この稽古場は現在風音が柱稽古を行う場として使っているので、どうしても気になってしまうのだ。
だからと言って興奮気味な二人が手を抜くなんてするはずもないし、そもそも柱同士の連携や力量の向上を目的とした手合わせなのだから手を抜いては意味がない。
「不死川と手合わせは随分と久方ぶりだな!君は風の呼吸の技の技術を一段上げた尊敬すべき剣士なので、実は手合わせの時を楽しみにしていた!」
目を輝かせて見つめてくる杏寿郎に実弥は居心地悪そうに身動ぎして木刀を構えた。
「アイツの思考が暴走しちまうからあんま褒めんなァ……でもまァ、楽しみにしてたんなら初めっから全力で相手してやるよ!風の呼吸ーー」
「炎の呼吸ーー」
思考が暴走しちまうアイツ……風音はひっそり人知れず思考だけでなく、表情も百面相を繰り広げて暴走させていた。
(そうだったんだ!やっぱり実弥君は同じ柱の杏寿郎さんから見ても強かったんだね!すごいなぁ、かっこいいなぁ。人を守るために強くなる努力をずっと続けてた……剣士になってからも柱になってからも)
実弥だけでなく今目の前にいる杏寿郎、他の柱たちは一般剣士よりも厳しく辛い稽古や自己鍛錬を日々行ってきた。
元々持ち合わせていた才能ももちろんあるのだろうが、才能というものだけで柱にまで上り詰め、何年も柱として剣士たちを導くことなど出来るはずもない。
風音は自分よりも遥かに先輩である目の前の二人に思いを馳せながらも、盗めるものは盗ませてもらおうと表情を引き締めて……とんでもない手合わせ見学を開始した。
「綺麗。技の残影は脳がそうだと認識してるだけだから、杏寿郎さんの残影に手を入れることが出来る。だけど実弥君の風に手入れられない。粉微塵に吹き飛んじゃうし。でも……触れてみたいなぁ」