第20章 強化訓練と育手
杏寿郎に向けていた顔をおずおずと実弥へ向けて様子を伺うと、特に迷惑がっている様子はなく、何だったら少し笑みを浮かべてくれていたので、風音の頬が赤く染まった。
「あ?何赤くなってんだよ。笑ったり落ち込んだり照れたり忙しいヤツ……煉獄、テメェも何笑ってやがる!」
「微笑ましいと思ってな!相も変わらず風音は不死川を一等好いているし、不死川の雰囲気も穏やかだ!見ているだけで笑顔になるのも仕方あるまい!」
他の者が同じことを言えば苛立ちを覚えていたであろう言葉も、杏寿郎が言えば不思議と苛立ちを覚えない。
明朗快活で普段から人の気持ちに自然と寄り添う人物だからなのだろうが、例え苛立ちを覚えなくとも恥ずかしさは拭えず、フイッと顔を背けて屋敷へと足を向けた。
「別に穏やかじゃねェ!そもそも風音が照れたりしなけりゃこんなことには……クソッ、揃いも揃って調子狂わせやがる」
「実弥君の優しい笑顔見たら見蕩れちゃうのは当たり前でしょ?照れると言うより見蕩れてたんだよ!朝からご馳走様です!今なら実弥君と杏寿郎さんをおんぶしてお稽古出来そう!ね、杏寿郎さん!実弥君の笑顔は……ぐぎゅ……」
二人の時ならば風音の気が済むまで惚気でも何でも聞いてやる実弥であっても、杏寿郎が近くにいるとなれば話は別だ。
いつも通りところ構わずよく動く風音のお口を閉じさせるため、足を動かしながら柔らかな頬を手でムギュっと掴んでやった。
その様子をやはり嫌味の全く映していない笑顔で見守る杏寿郎をチラと見遣り、大きく溜め息を着いて玄関の中へ足を踏み入れる。
「はァ……俺は朝から既に疲れたわ。煉獄、居間で待ってろ、朝飯持っていくからよ」
「いや、俺にも手伝わせてくれ!朝餉後だからな、少しでも動いて腹ごなしをしておきたい!……不死川、そろそろ風音を解放してやってはくれないか?抗わずじっとしている姿が何ともいじらしいのでな!」
腹ごなしを申し出た杏寿郎の言葉に実弥が風音に視線を動かすと、いつも通り抗わず頬を掴まれたまま唇を一文字に引き結んでいた。
「風音、俺が言いたいこと分かってるなら放してやる」
「ん!もちろんれす!」
上手く呂律の回っていない元気な返事を聞くと、杏寿郎に見守られながら風音の口と体を解放した。