第20章 強化訓練と育手
「転ばないと思うけど……でも二人でお迎えした方が喜んでくれそう!杏寿郎さんは少し早めに到着してくれそうだから早く」
「不死川!風音!在宅だろうか!」
噂をしていると待ち望んでいた柱である杏寿郎が、約束していた時間より少し早く到着した。
二人は顔を見合わせると、風音は速足で、実弥も風音が転んでしまう事態に陥った時を想定して速歩であとを追う。
「杏寿郎さん!実弥君も私も在宅です!すぐに門を開けるので待っててください!」
「そうか!だが急ぐ必要などないぞ!急いで転んでは大変だ、ゆっくりで構わない!」
「はい!では……ーー?!」
門の前まであと少しの距離で杏寿郎とやり取りをしていた風音は笑みを深めて歩幅を緩めるが、何故ここでという所で足を滑らせてしまった。
まさか本当に想定していた事態に陥るとは思っていなかったものの、いつでも動けるよう身構えていた実弥は風音の体を背後からすかさず片腕で抱え上げた。
「お前は何でそこで足滑らせんだよ。ったく……そこで大人しくしてろ」
「何でだろうね……私も分からない。すみません、大人しくしています」
何故か上手くいかずシュンと項垂れる風音を抱えたまま溜め息を零して門をゆっくり開き、今日も溌剌とした笑顔をたたえた杏寿郎を迎え入れる。
「入れよ、朝飯食ってねェなら一緒に食おうぜ。ちょうどさっき出来上がったところだからよォ」
「いらっしゃいませ、杏寿郎さん。お待ちしておりました」
招き入れてくれたこと、朝餉をご馳走してもらえることは杏寿郎とてもちろん嬉しい。
嬉しいに違いないが……実弥の腕に抱えられてプラプラ揺れながら、大人しくを意識しているであろう風音の存在を無視出来なかった。
「ありがとう!朝餉は食して来たのだが、ぜひご相伴に預かりたい!ところで風音が不死川の腕に抱えられて揺れているが大丈夫か?何があったんだ?」
「大丈夫です!歩幅を緩めた瞬間に転びかけたので、こうして実弥君が助けてくれたんです!これ以上迷惑をかけないよう……大人しくしているところでして」