第20章 強化訓練と育手
「実弥君が匂い好きって言ってくれたお薬あったでしょ?あのお薬とか練り香水の中に入れてる薬草の液体を、水で薄めて垂らしたんだよ。お稽古後の火照った体にぜひ!」
どこぞの商売人よろしく液体の宣伝をする風音に導かれるように手拭いの匂いを嗅いで納得。
今もたまに使用している練り香水と同じ匂いがしたのだ。
ほわほわと匂いに和む実弥の隣りを笑顔で通り過ぎ、地面と仲良ししている剣士たちにも実弥に渡したものと同じ手拭いを順番に配った。
剣士たちそれぞれの反応はどれも実弥と同じものである。
何だったら喜び勇んで隊服の釦を外して体まで拭き始めたので、滅法気に入ったものと見える。
「気に入っていただけて良かったです!まだまだあるから、お稽古をして疲れたら使おうね!私は元気なので……?」
ふわりと優しく視界が遮られた。
この場でそんなことをするのはただ一人、実弥だけだ。
だが実弥だけだったとしても何故視界を遮られたのかわからず首を傾げると、耳元で小さな声が聞こえた。
「男の裸見てんじゃねェ。アイツらが隊服着るまでこのまま大人しくしてろ」
……どうやら実弥は風音の目に剣士たちの裸を映させたくなかったらしい。
少し拗ねたようなぶっきらぼうな声音に風音はこっそり微笑み、実弥の小さなヤキモチを受け入れて頷いた。
おい、不死川さんが俺たちにヤキモチ焼いてるぞ
俺たち見る目が鋭い!
てか不死川さんのヤキモチとか今更だろ
やべ、聞こえてた!服着ろ!
剣士たちの囁きは二人の耳にしっかり届いており、風音は口元しか見えなくても分かるほどに幸せそうな笑みを浮かべたが……実弥はそうもいかない。
「余計なこと言う元気あるじゃねぇか……今度は俺がお前らを追い回してやるよ!捕まった奴ら全員俺の稽古に逆戻りだからなァ!さっさと服着やがれェ!」
本当に逆戻りさせられることはないだろうが、今から実弥が屋敷に戻るまで、剣士たちは実弥に追いかけ回されることが決定されてしまった。