第20章 強化訓練と育手
しかし風音はキュロットパンツが捲れようが気にしない。
そんなことを気にしていたら、この隊服で技を放つことが出来ないからだ。
それを理解している実弥は……何か言ってやりたくても言えない。
戦い慣れた隊服の方がいいだろうと提言したのは、他でもない実弥自身なのだから。
「キュロットの裾、紐で縛ってやろうか……てかお前、すっげぇ動き良くなったじゃねェか!伊黒んとこに行ったの正解だったなァ!」
「縛ったら鬱血するから……っと、フフッ。伊黒さんにお稽古でたくさん扱いてもらったんだよ!お陰様で動きやすいんです!」
実弥の途轍もなく速い動きを飛んだり跳ねたりして身軽に躱しては、笑顔で受け答えをする風音を前に、剣士たちは既に満身創痍。
喉はカラカラに乾き、そろそろ水を流し込まなくては喉が切れてしまいそうな程だ。
「ちょ……ちょっと待って!水……水分補給を望みます!風音、不死川さん……ちょっと水飲ませて!喉から血が出る!」
勇の必死の訴えに柱二人の動きがピタリと止まる。
これが実弥の稽古ならば間違いなく受け入れられない要望であっても、これは風音が行っている稽古。
いくら実弥が不服そうな顔をしても決定権は風音にあるので、怒鳴り散らされることはなかった。
「分かりました!では今から三分休憩にします。あ!いい物があるんですよ!ちょっと待っててね」
皆にニコリと微笑んた風音が向かった先は、稽古場の隅っこに置かれた張り裂けそうなほどにパンパンに膨れ上がっている鞄の前。
風音がしゃがみこみゴソゴソしているところに、する事がなく手持ち無沙汰な実弥が覗き込んで様子を伺う。
「手拭いか?」
「うん!手拭いをお水に浸してこの液体を垂らすと……はい!どうぞ!実弥君、それで体拭いてみて?」
実弥が手渡されたのは何の変哲もない濡れた手拭い。
何やら数滴液体を垂らしていたようだが、それ以外は特に変わったことをしていなかった。
あの液体は何だったのか気になるものの、害があるものを風音が自分たちに渡すわけもないので、言われた通りに首筋に手拭いを当て汗をぬぐい取る。
「……何も変わり……おぉ!何だこれ?!濡れた手拭いで拭くより涼しく感じるぜ!お前すげぇなァ!」