第3章 能力と剣士
無理をするなと言っていたのに風音の体に無理を強制しながらギロリと睨みつけてくる実弥に、各々が携えてきた握り飯と飲み物を翳した。
「勿論だ!俺は握り飯、宇髄は飲み物を持ってきたぞ!それよりそろそろ離してやらんと本当に腱が切れるのではないか?」
風音にとって有難い杏寿郎の言葉は無常にも実弥によってバッサリ切り捨てられてしまうこととなる。
「これくらいで切れっかよ。ただ体を曲げるだけなら柔軟なんて言わねェだろうが。お前ら、持ってきたもん広げとけ。俺はもうしばらくコイツの柔軟とやらに付き合ってやる」
「実弥さんの柔軟の認識!大変!冷や汗流れてます!膝の裏が!ピキってなってます!」
しゃがんで痛みから逃れればいいものを、咄嗟にそんなことに気付かず実弥の体を身を呈して支え続けた風音は、二人の遣り取りを苦笑いを浮かべつつ持参したものを広げる杏寿郎と天元に見守られながら暫くの時間を過ごした。
しばらくして解放された風音は太腿から膝にかけての裏に鈍い痛みを感じていた。
それでも目の前の美味しそうな握り飯と様々な飲み物の誘惑には勝つことが出来ず、有難く実弥と共にご相伴に預かっている。
「で、細っこくて体が異常に硬い嬢ちゃん。何で鬼殺隊なんて血なまぐさいとこに入ろうと思ったんだ?薬作るの好きならそれで生活出来なくもねぇだろ?」
ニコニコと握り飯を頬張っていた風音の表情が固まった。
きっかけは自分の力を鬼殺隊で役立てたい……と思ったからだ。
しかし今は別の目的も出来た。
その別の目的を二人に話していいのか分からず実弥を見上げると、風音の今の行動の意図をしっかり汲み取ってくれたのだろう、小さく頷きながら頭をくしゃりと撫でた。
「父ちゃんのこと、お前がいいなら話して構わねぇよ」
「……はい!天元さん、杏寿郎さん。昨日お話し出来なかったこともお話させていただこうと思います。少し長くなりますが……」
二人が頷き返してくれたことを確認すると、保護された日の夜にあったこと、能力のこと、父親のことを順番に話した。
長く信じられないような話も、鬼殺隊の柱ならば不快に思うかもしれない話にも二人は静かに耳を傾け、真剣な表情で聞き続けてくれた。