第20章 強化訓練と育手
「本当?!嬉しい!じゃあ私の柱としての初任務は勇さんたちにお稽古をつけることだね!……皆さんの期待に恥じないお稽古にしないと!頑張りますね!先輩柱様!」
気合い十分。
片手で握り拳を作り、もう片方の手は煎餅へと伸びる。
取った一枚は実弥へ、もう一枚は自分で持ってキリッとした表情で口へ運びバリバリ咀嚼。
「先輩柱ってなんだよ……だがまァ、お前を追いかけ回して捕まえんの面白そうだよなァ。昼からアイツらを風音の稽古に参加させるから、俺も三十分くらい混ぜろ」
「うん!もちろ……え?!実弥君が参加するの?!先を見なくても分かるよ、私が実弥君に捕まる未来が」
楽しそうな……本当に楽しそうな笑顔で煎餅の咀嚼を始めた実弥の言葉に勢いよく頷き後悔。
しかし一度頷き了承したものを覆すなど出来ない。
そもそも実弥に望まれれば否など言えるはずのない風音は、了承するしか道は残されていないのだが。
「捕まる先を見て避ければ問題ねェだろ。足の速さは俺と同じくらいなんだから、俺に捕まらねェ未来はいくらでもあるはずだ」
「……突発的な反射神経は実弥君のが上なんだけどね。でも……実弥君から望まれることは何でも受け入れたい……うん、頑張ります!」
無事に決着の着いた二人の会話、穏やかな雰囲気に汗を流す剣士が数名。
(待ってくれ!不死川さんいたらすっごい厳しい稽古なるじゃん!拒否してくれよ!)
楽しげな会話に目を覚ました数名の剣士たち。
その内の一人である勇は自分が実弥に合格を貰える頃合いの悪さに愕然としている。
あとの数名も合格をもらえそうな心当たりのある者は呼吸浅く冷や汗を流した。
「おい、風音。そろそろ稽古再開させんぞ。立花とか起きてやがる……テメェら俺ら柱の前で寝たフリとかいい度胸してんじゃねェかァ!狸寝入りするヒマあんなら起きて基礎鍛錬しやがれ!」
激しい実弥の叱責にほぼ全員が弾かれたように起き上がり、これ以上怒られてなるものかと疲れた体に鞭打って基礎鍛錬を開始した。
「あらら。フフッ、今日も皆さん元気で何よりです!私のお稽古は楽しめると思うので、一緒に楽しみましょうね」
楽しめるはずがない。
実弥より優しいことは確実だろうが風音は実弥の元継子。
緩々の柱稽古なんて期待するだけ無駄である。