第20章 強化訓練と育手
ということで実弥から直々に休憩を言い渡された剣士たちは、風音の買ってきてくれた煎餅と用意してくれた茶を片手に小腹を満たした後、その場で死んだように眠りこけてしまった。
「情けねェなァ。風音の軟膏を塗ってやりたくなる伊黒の気持ちが痛いほど分かるわ。すぐへばっちまいやかる……おい、サチ。そろそろ落ち着け、風音の顔がお前のヨダレでびちゃびちゃなってんだろ」
呆れほんの少し愚痴を零す実弥にただただ笑顔のみで応える風音。
それもこれも風音が帰ってきてからサチが側を離れず、腰を落ち着けてからは永遠と熱烈歓迎を受けていたからだ。
そんな風音の側からサチを抱え上げて胸の中におさめてやると、次は風音の顔を手拭いで慎重に拭ってやる。
「風音が家ん中に一週間居なくて寂しかったんだろうが、これはさすがにやり過ぎだァ。ほら、拭き終わったぞ。お前も茶飲んどけ」
手拭いが離れ開けた風音の視界に映りこんだのは、隙あらば飛びかかって顔を舐めようとするサチと、それを片腕で抑え湯呑みを差し出してくれている実弥だった。
稽古の合間のなんとも心満たされる光景に癒されつつ、差し出された湯呑みを受け取って茶を喉に流し込んで一心地。
「ありがとう!サッちゃん、お稽古終わったらお散歩に行くからそれまで少し待っててね。実弥君、お稽古は……どう?そろそろ私のお稽古に突入出来そうな人はいる?」
居間の中の剣士たちは漏れなく全員が眠りについている。
穏やかな表情と言うより、少しでも体を休めなくてはと必死の形相で眠りに落ちているので、あまり体を休められていないのでは?と思える寝顔だ。
それだけで実弥の稽古は剣士たちにとって厳しいものだと分かる。
しかし柱稽古が開始されて二週間経過した。
そろそろ風音の稽古に漕ぎつけるものが現れてもおかしくない状況なので尋ねてみると、実弥はサチの体を撫でながら首を傾げた。
「そうだなァ、立花とかあと数人は風音の稽古に行かせても問題ねェと思うが。お前が帰ってきて気ィ緩まらねェなら今日の昼から稽古つけてやれ」
なんとこの一週間の間に勇たち数名は実弥のお眼鏡にかなったらしい。
つまり実弥に一太刀を入れることが叶ったのだろう。