第20章 強化訓練と育手
翌朝、風音はすこぶる良い機嫌で小芭内や剣士たちの朝餉の準備終わらせ、昨夜実弥によって飛ばされてきた爽籟を送り出し、楓を胸の中に迎え入れた。
小芭内や剣士たちが朝起きてくる頃には着替えも済まされ、何だったら柔軟まで終わらせて満面の笑みで基礎鍛錬を行っていたので、その姿を見たもの全員が目を丸くしたそうな……
「ひ、柊木さん。すごく機嫌良いですね。伊黒さんの稽古怖くないんですか?」
しかもそれは道場へと到着した現在も継続中で、流石に浮き足立ってはいないものの顔は笑みで満たされており、一人の剣士が堪らずこうして問い掛けたのだ。
「はい!昨日素敵なお手紙をいただけたもので。でも……そろそろ気を引き締めます。お稽古自体に恐怖はありませんが、ふわふわした気持ちで受けられるほど、伊黒さんのお稽古は甘くはありませんから。一緒に頑張りましょうね」
ニコニコ満面の笑みから柔らかな笑顔に変化した。
それに伴って纏う雰囲気も無邪気なものから剣士のものへと様変わりし、翡翠石のような瞳がゆらりと不思議な光を宿した。
「あ……柊木さん、その目。昨日と同じ、そうやって不思議な色なった後すぐに頭の中に……未来?の光景みたいなのが入ってきたんです。あれってやっぱり柊木さんが?」
怯えるでもない蔑むでもない、本当に疑問なのだという表情をして見つめてくる剣士に笑みを浮かべたまま答えた。
「私です。私は望めば人の未来を見ることが出来、その未来の光景を私が望む人と共有出来ます。今日は頑張ってこの場の剣士全員の先を見てそれぞれに送るので……あ、木刀を構えて。伊黒さんのお稽古が始まります!」
風音が木刀を構えた瞬間を目にした直後、剣士の頭の中には言葉通り未来が送られきて……その未来の通り体に衝撃を受け吹き飛ばされた。
「おい、愚図。柊木に先を見せてもらっていても尚その有り様か。呆れてものも言えん。伸びるにはまだ早いぞ!」
風音を通り越して小芭内が向かった先は吹き飛ばされた剣士のもと。
情け容赦なく木刀を振り上げる度、悲鳴が道場内に響き渡る。
それを視界に映した風音はひっそり冷や汗を流していた。
(私、自分の力に慣れるまで何ヶ月もかかった……なんて大きな声で言えない!)