第20章 強化訓練と育手
風音の損傷、多数。
小芭内の損傷、袖口に掠った痕一つ。
吹き飛ばされ床を転がり、杭に縛り付けられた剣士に何度かぶつかり謝罪すること数回。
途中で音を上げなかったこと、言われたことはすぐに改善しようと試み実践に移したこと、あとは小芭内の袖口に木刀を掠らせたことにより、風音が杭に縛り付けられる事態はどうにか免れた。
「伊黒さん!長い時間お稽古付けていただきありがとうございました。変な癖がついていて動きがぎこちなかったので、明日は癖を矯正し、手首や腕の関節を中心に動かすことを意識してみます」
「あ、あぁ……そうか。君はいつも不死川に反省点や改善点を述べているのだったな。それで構わない。ところで今日はどうする?まだ日は暮れていないが、帰る途中で日が暮れる。泊まっていくか?」
そして稽古の終わった現在、風音は楓を肩に携えながらいつも実弥にしているように反省点を述べ終え、笑顔で鞄の中に手を突っ込んで何かを取り出そうとして、小芭内の問い掛けにその動きを止めた。
「ご迷惑でなければ本日はお世話になってもいいでしょうか?実弥君から暗くなるようなら伊黒さんのお家でお世話になりなさい……と言っていただいていまして。それで……あの、そのお礼と言いますかお詫びと言いますか……これを」
止めていた手を動かし、鞄から取り出したのは風呂敷に包まれた少し大きめの物。
もちろん小芭内はそれが何か分からないので首を傾げながらも、差し出された物を受け取った。
「もちろん泊まっていってくれて構わない。で、柊木、これは何だ?」
「ありがとうございます!あ、これはおうどんとおぼろ昆布です。伊黒さん、以前にお食事処で食べていらしたのでお好きなのではと思いまして……」
柱全員と本部で決めた柱稽古に赴いてきただけの風音の手土産に小芭内が固まった。
心遣いは嬉しいのだが、まさか手土産を持参するなど思いもよらなかったのだろう。
「……わざわざ買ってきてくれたのか?あ……いや、とろろ……おぼろ昆布は好きなのだが……君の前で一度食べただけだろう?随分前のことを覚えていてくれたんだな」
「買って……来たと言いますか、用意してきただけなんです。でもよかったぁ!お好きなものが合っていて。おぼろ昆布美味しくて私も好きなので、しっかり覚えていたんです」