第20章 強化訓練と育手
以前に風音は小芭内に稽古をつけてもらっていたので、剣士たちより小芭内の独特な動きに翻弄されることはない。
しかし風音が木刀を振り上げる度、杭に縛り付けられている剣士たちの表情や動きが何とも精神を揺さぶってくる。
振り下ろそうとすれば頭を庇うように、横に薙げば体を捩らせ、突きを出そうとすると腹が引っ込む。
そしてらそれら全てに共通すること、それは剣士たちの涙ながらの懇願するような表情。
(痛いの嫌だ!ぶつけないでくれ!)
心の叫びが風音に送り込まれてくる……
挙げ句の果てには杭に木刀が掠ろうものなら悲壮な表情を風音に向けた後……気を失ってしまうのだ。
(鬼なら割り切れるのに!伊黒さんの動きに集中したいけど……剣士の皆さんが!)
「集中出来ないか?……手を抜きすぎたようだな」
「すみません!いっ?!伊黒さん、剣士の皆さんの表情を見ていると辛いです!」
痛いの嫌だ、出来るならばここから解放して助けてくれ
と決して少なくない剣士たちの心の声を無視出来ず救助を試みるも、やはり結果は想像通りのものだった。
「愚図共の戯れ言などにうつつを抜かすな。鬼との戦闘でも同じことを鬼に主張するのか?聞いてくれると思っているのか?君の成すべきことが何なのか……しっかり考えろ!」
風音を諌めている間も小芭内の猛攻が緩まることはない。
甲高い音が永遠と響く道場内で変わらず張り詰めた雰囲気を醸し出している小芭内。
その小芭内の雰囲気、言葉に風音の頭を巡ったのはいつも実弥に言い聞かせられていた言葉だった。
(鬼の戯言聞く暇あんなら頸斬っちまえ……私から戯言を誘発してどうするんだ。剣士の皆さんは気になるけど……今は目の前の伊黒さんに集中!)
心の中で剣士たちに謝罪しながら改めて小芭内の先を本人に送り出し、言葉に甘えてこの場にいる半数の剣士たちの先を望み、それらを本人たちに送り出した。
何も事情を知らされていない剣士たちの肩がビクリと震え……小芭内の綺麗な瞳が楽しそうに僅かに細められる。
「不死川の継子だっただけのことはある。いい度胸だ」
準備の整った風音へ、再び小芭内は不規則ながらも正確な太刀筋で木刀を振り始めた。