第20章 強化訓練と育手
「ごめんください!伊黒さん!柊木です!お稽古を付けて頂きたく馳せ参じました!……もしお時間ありますなら手合せも……あれ?やけに静か……お留守かな?」
元気に門戸を叩いたが応答なし。
どうしたものかと楓と顔を見合わせること数秒。
勝手に門を開いていいのか悩んでいると、聞き覚えのある足音が門の向こうから響き、門の前でその音が止まった。
そしてゆっくりと門が開き、待ち望んでいた綺麗な瞳を持つ柱が顔を覗かせた。
「よく来たな。不死川からの報せで事情は把握している。ちょうどいい、俺も不死川と同じく情けない剣士たちにウンザリしていたところだ。中に入ってくれ、早速稽古をつけてやる」
早速稽古をつけてくれることは風音にとってもありがたいことだ。
しかし小芭内の言葉、醸し出す雰囲気は何とも不穏なものである。
「あ、ありがとうございます!えっと、伊黒さんのお稽古は確かしなやかな関節の動きを身に付ける……だったと思うのですけれど。こちらでも剣士の方々は苦戦しているんですか?」
「……まぁ、そうだな。ここで話すより見る方が早いだろう。俺の稽古は道場で行っている。行くぞ」
門を開き招き入れてくれたので、それに抗うことなくいそいそとお邪魔させてもらうと、早足で道場があるであろう場所へと急ぐ小芭内の後を駆け足で追いかけた。
「ここだ。不死川の元継子で柱にまで上り詰めた君が、コイツらと同じ姿にならないことを願っているぞ」
開け放たれたままだった道場の戸の前に佇む小芭内に中を見るよう促された風音。
やはり不穏な言葉と空気に冷や汗を流しながら中を覗き込み……楓を抱く力が僅かに強まった。
「杭に……剣士の方々が縛り付けられていますね?!これは……どう言った状況でしょうか?!私はどのようにお稽古を受けさせていただけば……」
「何度も俺に同じことを言わせるクセに何度も同じ間違いをおかす。すぐ床に膝と手を付きもう無理だと弱音まで吐き、俺を苛つかせた剣士の成れの果てだ。どうやってこうなるのか見せてやるから、そこで見学しているといい。おい、そこの愚図。さっさと構えろ」
息付く暇もないほどに捲し立てた小芭内に言葉を返すことすら憚られ、何度も頷きながら、ガクガク震え木刀を握り締める剣士と、苛立ちを全面に出しながら構えた小芭内を見守った。