第20章 強化訓練と育手
遥か後ろで悲鳴がしたような気がした。
しかしそれも慣れたもの。
風音は空からふわりと舞い降りてきた楓を腕に抱きながら機嫌良く小芭内の屋敷へと続く道を歩いていた。
「私、実弥君としのぶちゃん以外の柱の人の家にお邪魔するの初めて。お世話になるんだからお菓子か何か持っていかなきゃね。伊黒さんの好きな物……前にお食事処でとろろ昆布の入ったうどんを食べてらしたような……」
合ってる?と楓に首を傾げて問い掛けるも、楓はまだ風音の鎹鴉ではなかったので分からず首をフルフルと左右に振った。
「私ハ存ジ上ゲマセン……デモ食ベテラシタノナラ、オ好キナモノカト。買ッテ行キマショウ!」
知らないながらも提案してくれた優しい楓の頭を撫で大きく頷いた。
「うん!楓ちゃんいてくれてよかった。じゃあ、伊黒さんのお家に行く前に乾物屋さんとうどん売ってるお店に行かないと。街出る前に気付いてよかったぁ!楓ちゃん、ありがとう!」
無邪気に喜ぶ風音の腕に頭を擦り寄せ楓が喜びを露わにすると、風音も更に笑みを深めて足取り軽く人の良い店主が多くいる商店街へと向かった。
「……楓ちゃん。私は店主さんたちにいつの日かたくさんお返ししなきゃ。実弥君とお買い物行った時はお金受け取ってもらえるのに、私だけだと受け取ってもらえない。見て?とろろ昆布お願いしたのに、まさかのおぼろ昆布だよ?どうしよう」
今日は財布を忘れていない。
持ち歩いて危険のない程度の金を財布に入れて持ってきたのに、うどんもとろろ昆布もお金を受け取って貰えなかったのだ。
「一人でお買い物かい?偉いねぇ、ほら、これ持っていきな!おまけしといてあげるよ」
と二つの店で商品と金の押し付け合いを行った結果…… 風音が押し負けた。
さらには店の外にまで出てきて、戸惑い佇む風音の背を押すものだから店を離れるほか残された道は無かったのだ。
「キット風音サンヲ娘ノヨウニ思ッテイルノデスヨ。近イウチニ不死川様トオ礼ニ行ケバ喜ンデクレルハズデス」
真偽のほどは分からない。
しかし店主は二人とも笑顔だったので可愛がってくれているのだろうと風音とて理解出来た。
「うん!そうする!」
気を持ち直した風音はうどんとおぼろ昆布を手に小芭内の屋敷へと再度足を動かした。