第3章 能力と剣士
杏寿郎が中に入りやすいよう門を大きく開いてみると、満面の笑みで頷き足を踏み入れたのだが……
「風音!もう一人客が来たようだぞ!君の後ろに立っている!」
「よっ、嬢ちゃん!邪魔してんぜ!」
「ひぅっ!天元さん?!いつの間に……」
声に驚き振り返ると、相変わらず綺麗な顔の造りの天元がニカッと晴れ晴れとした笑顔で風音の顔を覗き込んでいた。
「俺も入れてくれや!てか不死川がこの時間まで寝てんの珍しいな!」
邪魔してるくせに入れてくれと言う天元は実弥の部屋を知っているのかそちらに視線を向けて様子を伺っているが、もちろん眠りについている実弥が姿を現すはずもない。
実弥がこの時間まで休んでいる原因である風音は居心地悪そうに身動ぎし、心配げに天元の視線の先をチラと見遣ってから二人の隊服をツンツンと引っ張った。
「取り敢えず中で待っていてください!私は食材の買い出しに行ってきます!すぐに戻るので居間で寛いでて下さいね。お財布……中身入ってたかな?」
恐ろしく不安を掻き立てられる最後の呟きに、玄関へと走り去ろうとする風音の手を二人同時に掴んで引き止めた。
「待て待て!俺たちの夕餉まで準備する必要などないぞ!君が頑張って貯めていた金は残しておきなさい。こんなこともあろうかと僅かながら握り飯を用意してきた!これを食べながら約束通り親交を深めようではないか!」
杏寿郎の手元に視線を移すと、驚くくらい大きな弁当箱を携えていた。
それこそ風音だけだと食べ切るのに何日もかかりそうなほどの量の握り飯が入っているのだろう。
「嬢ちゃんと親交深めに来たのに、嬢ちゃんに馳走になるわけにいかねぇからな!ほれ、入った入った!飲み物は俺が持ってきてやったからな!買い出し行く暇あんなら俺の酌してくれ!」
「え?私と親交を……本当ですか?!わぁ!すごく嬉しいです!早く実弥さんにご報告したい!居候の身ですが中へどうぞ!私を尋ねて来てくれる方が出来るなんて夢みたい!」
浮き足立って先を歩く少女の背中は本当に嬉しそうで、見ている二人の方が嬉しくなるものだったが、随所随所で過去に悲しいことを多く味わったのだと分かる言葉が二人の心をチクリと痛ませた。